行灯が照らす薄暗い部屋の中、男が一人布団の上に正座していた。
少年から青年にようやく移った頃ほどの、若い男だ。
彼は白い着物に袖を通し、緊張した面もちでちらちらと四方を囲むふすまをみていた。
行灯と布団、そのほかには何もない一室だからだろうか。
いや違う。明らかに彼は、誰かを待っていた。
「入るぞ」
不意に声が響き、男がびくりと身体を震わせた。
直後、ふすまの一枚がすうっと音もなく開いた。
ふすまの向こう、行灯の光に照らされたのは、異形の女だった。
一見すると、男と同じ白い着物に袖を通した、やや野生的な印象を受ける美女だった。
だが彼女は、灰色の髪の間から角を生やし、腰から下が蜘蛛のごとき姿の、異形の女だった。
女は、柔らかな毛に包まれた両腕で、何かを乗せたお盆を手に、部屋の中に入った。
そして蜘蛛足を屈めてお盆を畳の上に置くと、そっとふすまを閉じる。
「待たせたな」
異形の女、ウシオニが布団の枕元にお盆を置きながら、男にそう言う。
「いや、そんなに待ってないよ」
「へえ、じゃあ何でオレが来るまで、不安そうにきょろきょろしてたんだ?」
「うぐ」
男が漏らした声に、ウシオニはクスリと微笑んだ。
「カマかけただって・・・ま、準備に手間取ったのは謝る」
彼女はそう言いながら、お盆の上の徳利を手に取った。
「それは?」
「酒に、ゼンヨウやらダイオウやらエンシクやら・・・とにかく、薬草をぶち込んで作った薬用酒ってヤツだ」
「へえ、効能は?冷え性とか?」
「あのなあ、今夜みたいな時に、オレが冷え性の薬を用意すると思ったか?もちろんあっちの方だよ」
おかしくてたまらない、といった様子のウシオニの言葉に、男は会話をするうちほぐれていた緊張が、体を強ばらせるのを感じた。
そう、男は今夜、このウシオニと正式に婚姻を結ぶため、一緒に夜を過ごすのだ。
「何だ?緊張してんのか?」
小さく身を震わせる男に、ウシオニが問いかける。
「そんなに緊張しなくていいって。どーせいつもと一緒だろ?」
「で、でも・・・最後までやるのは、初めてだし・・・」
物陰や森の奥で、ウシオニと互いの体をいじりあったことはある。
だが、それはあくまでも好奇心やふざけあいの延長線上で、愛を交わしたわけではなかった。
「だから、今夜初めてをヤるんだろうが」
もじもじとする男に、ウシオニは笑いながらいった。
「ほら、始めるぞ」
「う、うん・・・」
ウシオニの言葉に、少年がうなづく。
まずは、何をすればいいのだろう。ウシオニの持ってきた酒を飲めばいいのだろうか?
男は枕元のお盆をみるが、そこにはもう何も乗っていなかった。
「あれ、杯は・・・」
「杯?ここにあるだろうよ」
ウシオニはそう言うと、徳利に直接口を付け、天井を仰ぎながらその中身を口中に注いでいった。
彼女ののどが上下し、薬酒が彼女の体内に入っていく。
(あ、飲むの僕じゃなかったんだ・・・)
男が、勢いよく酒を飲み干す彼女の姿に、そう頭の隅で考えた。
そうするうちに、ウシオニの持つ徳利は上下逆さまになっていき、ついに底が天井と向かい合う。
徳利の中身が空になったところで、ようやくウシオニは顔と徳利をおろした。
だが、彼女の口からは「ぷはぁ」などという声は漏れず、唇がすぼめられ、妙に頬が膨れていた。
直後、ウシオニは徳利を放り捨てると同時に、男に詰めよってきた。
「うわ・・・!」
男が声を上げる間に、その下半身はウシオニの蜘蛛足に押さえられ、頬を毛に覆われた両手で挟み込まれる。
そして、窄められたウシオニの唇が彼の唇に押し当てられた。
すると、彼女の口から大量の液体が、男の口内にそそぎ込まれる。
ぴりと舌を刺すような刺激は、酒のものだ。ウシオニがたっぷりと口の中に含んだ酒を、男に飲ませているのだ。
「ん・・・んぶ・・・!」
男はそそぎ込まれる薬酒を、驚き混じりの声を漏らしながらも受け入れ、飲んでいった。
薬草を漬けた酒だという割には、薬臭さや苦みはなく、たださわやかな甘みのようなものが感じられる。
だが、やはり酒だということもあり、男の口やのどは熱を帯び、徐々に全身に広がっていった。
「ん・・・んぅ・・・!」
ウシオニから口移しで酒を飲まされるうち、男の目がとろんと焦点をずらしていった。
酒が頭に回って、意識がぼやけ始めたのだ。
そして、ウシオニが口中の酒を注ぎ終え、唇をはなす頃には、男の緊張は完全に掻き消えていた。
「うぁあー」
「はは、すごい効き目だな・・・」
男を抱擁したまま、ウシオニがつぶやく。
無理もない。酒を飲ませるうち、男の下半身の一部が固さを帯び、彼女の蜘蛛腹の裏を押し上げているのだ。
その一方で、男自身は全身を強ばらせていた緊張を解き、彼女に身をゆだねていた。
意識までもがぼんやりしているのは、彼が酒を飲みなれていな
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