町外れの空き地で、サラマンダーと若い男が、剣を手に向かい合っていた。
二人とも手にしているのは、使い古された練習用の剣で、刃はつぶしてあった。
だが、二人の間に走る緊張感は、真剣を手にしているかのように重く、鋭かった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人とも無言のままで向かい合い、ただ静かににらみ合っていた。
間合いを測り、タイミングを計り、機を図る。
しかし、サラマンダーが静かに男を見ているのに対し、男の方はかすかに震えていた。
不安と緊張のあまり、剣の切っ先が小さく揺れている。
「どうした?こないのか?」
サラマンダーが、尻尾の炎を揺らしながら、口を開いた。
「お見合いじゃないんだ。にらみ合いを続けるようなら、試合放棄と見なすぞ」
「い、いえ・・・今行きます・・・!」
サラマンダーの言葉に男は剣を握り直し、すうはあと呼吸を重ねた。
そしてその直後、彼は剣を上段に構え、口を開いた。
「つぇぇぇぁぁぁあああああっ!」
やたら気合いのこもった、裂帛のかけ声とともに、男の体が動く。
踏み込みは鋭く、一足飛びにサラマンダーとの距離が詰まる。
剣が振り上げられ、男の腕に力がこもり、一瞬シャツの袖からのぞく腕が膨れ上がる。
力と速度と重量を備えた、不可避に等しい一撃だ。
相対するのが初めてならば、という条件付きだが。
「ふ・・・」
サラマンダーは、小さく吐息を漏らすと、剣の切っ先を残したまま一歩だけ退いた。
サラマンダーの剣と、男の剣が触れ合い、上から下へと続いていた太刀筋が歪められた。
加えて、サラマンダー自身が身を引いていたため、男の一撃はむなしく空を切った。
「はっ・・・」
手応えがなかったことに、男の口から裂帛の雄叫びの名残とも、驚きの声ともつかぬ物が漏れ出た。
そして彼は反射的に、件を構え直すより先にサラマンダーの方を見た。
「はい、おしまい」
男の額を、サラマンダーの握った剣の腹が、軽くこづく。
「あ痛・・・!」
「あいた、じゃない。全く、何だ今のは・・・」
手合わせを終え、剣を腰の鞘に戻したサラマンダーが、男にぼやいた。
「間合いも太刀筋も丸見えで、かわされた時のことをまるで考えていない。『カウンターしろ』と言っているようなものだ」
「でも・・・速度はあったでしょう、先生・・・」
剣でこづかれた額を擦りながら、男がそう口答えをした。
「速かったな。だが、それだけだ。いくら速くても、どこに突っ込んでくるか見えてるのは、止まってるのと同じなんだよ」
「そんなあ・・・」
全身全霊での、全力の一撃をそう評価され、男はがっくりと肩を落とした。
「ただ、速かったのはほめてやる。その速さをもう少しだけ、太刀筋に活かしてやれば、もっとよくなるはずだ。さ、今日は終わりだ。飯にしよう」
彼女は男のそばに歩み寄り、軽く肩をたたいた。
「もっと、強くなれよ」
そう言う彼女の尻尾の炎は、メラメラと大きく燃えていた。
練習用の剣を腰に下げたまま、二人は食堂も兼ねた酒場に来ていた。
日が沈み、一日が終われば酔客が溢れるが、今のこの時間はまだ食堂として使われていた。
「全く・・・筋はいいのに、どうしてそう力の掛けどころがズレてるんだろうなあ?」
パンとスープに揚げ物のセット料理を平らげながら、サラマンダーが傍らに座る男に問いかけた。
「僕としては、常に全力でやってるつもりなんですけど・・・」
揚げ物を肉と野菜の炒め物に変えたほかは、サラマンダーと全く同じメニューを口に運びつつ、男が答える。
「その全力の掛けどころがおかしいんだよ。アタシが『もっと速く』って言ったら、お前は速さに100掛けるんだ。速さに80、フェイントに10、残りの10は防御ぐらいに割り振らないと」
「そんなこと言われても・・・先生を前にしてるだけで、一杯一杯なんですから」
男の泣き言に、サラマンダーはため息をついた。
「あのなあ・・・アタシとの手合わせは、あくまで練習だ。本当に剣と剣をぶつけ合うときどうするんだよ。敵さんは、アタシみたいに剣の腹で軽くぶつぐらいじゃ許してくれないぞ?」
「そう言われても・・・」
「それに・・・アタシに勝てなかったら、いつお前はアタシをもらってくれるんだよ」
最後の言葉は、男には届かなかったようだった。だが。
「へへへへ・・・」
二人の後ろから、低い笑い声が響いた。
「ん?」
会話に割り込んだ笑い声に、サラマンダーは怪訝な声を漏らしながら振り返った。
男とサラマンダーの後ろ、テーブル席には男が一人腰を下ろしていた。テーブルに軽く沿った鞘に収まる剣を立てかけているところを見ると、剣士のようだった。
「『いつもらってくれるんだ』・・・か、お熱いねえ・・・」
ニヤニヤと、男はサラマンダーを見ながら言った。
「なんだお前。人の話を盗み聞きしやがって」
「
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