電子音が鳴り響き、私は目を覚ました。
布団の中から手を伸ばして目覚ましを止め、起きあがる。
「うーん・・・!」
軽く伸びをして、寝ている間に固まっていた体をほぐす。
心地の良い目覚めだ。
私は起き上がり、部屋を出ると洗面所に向かった。
老化を進んでいると、台所から漂う味噌汁のおいしそうな香りが、私の鼻をくすぐった。
「おはよう、智花」
台所の方から、父さんがそう私を呼んだ。
「おはよう、父さん」
「もう少しで朝ご飯できるからな」
ワイシャツの上にエプロンをつけ、手にはお玉を持ったまま、父さんはそう私に言った。
「はーい」
私は父さんの言葉にそう応えると、洗面所に入った。
顔を洗い、髪に櫛を通し、身だしなみを整える。
最後に鏡でチェックしてから、洗面所を出てダイニングに入った。
食卓にはご飯と味噌汁、それに卵焼きが並んでおり、すでに父さんは朝食に箸をつけていた。
「お待たせ」
「ん、弁当はそこおいてるからな」
「ありがとう」
父さんの作ってくれた弁当を確認しつつ、私は食卓に着いた。
「いただきまーす」
軽く手を合わせ、箸とお椀を手に取る。
味噌汁を軽く啜ると、ほっとするような温もりが体内に広がった。
「あーおいし・・・」
「そりゃよかった。でも、智花の味噌汁にはかなわないけどな」
「またまたー」
父さんの言葉に、私は苦笑した。
父さんはそう卑下するが、実際のところ父さんの手際の良さには負ける。
今朝の朝食も、お弁当の準備をしながら作ったのだろう。
私が朝食を作ることもあるが、お弁当までは手が回らない。
「ん、卵焼きおいしー」
小皿に盛られた卵焼きを一切れ口に運び、私はそう漏らした。
「今日の卵焼きはどうだ?」
「うん、おいしいよ。お弁当が楽しみ」
「そうか。今日は少し塩加減を間違えたような気がしてな」
「そう?いつもと変わらないように思うけど・・・」
私は念のためもう一切れ卵焼きを取り、口に運んだ。
うん、いつもと変わらない、少しだけ甘いふわふわの卵焼きだ。
「んー、いつもと同じぐらいおいしい」
「それならいいんだ」
塩加減は勘違いだったと納得したのか、父さんは頷いた。
「ところで智花、今日の予定は覚えているか?」
「えーと・・・あ、夕ご飯は外で、だったね」
「そうだ」
私の返答に、父さんは頷いた。
「待ち合わせは、夕方の六時に、駅前だったよね?」
「ああ。前々から話してたと思うが、あまり恥ずかしくない格好で来いよ」
「大丈夫だって。去年の文化祭の時のメイド服、舞台衣装だったけど造りは本物と同じよ?」
「うーん、メイド服よりウェイトレスの方がよかったなあ」
私の冗談に、父さんはそう乗ってきた。
「ま、冗談はともかくとしてだ。学校の制服で、とはいわないがちゃんとした服装で来てくれよ?」
「うん、分かってる」
「その辺、頼むぞ?」
私にそう念押しすると、父さんは食卓を立った。
「ごちそうさま」
「後洗っとくからね」
「頼む」
父さんは自分の食器を台所の流しにおくと、ダイニングを出ていった。
そして、背広を羽織り、鞄を手にして戻ってきた。
「じゃあ行ってくるが、戸締まりもしっかりな」
「はーい。気をつけて行ってらっしゃい」
「行ってきます」
私の言葉を背に、父さんはダイニングを出て、玄関を開き出かけていった。
さて、私ものんびりしていられない。
急いで朝食を片づけると、私は食器を流しに運び、手早く洗った。
二人分の茶碗とお椀と小皿をすすぎ、塗れたままのそれを水切りかごに入れる。
このままにしておけば、夕方までには乾くだろう。
キッチンを出て、自分の部屋に戻り、制服に着替える。
急ぎつつも、変なしわやがつかないよう気を使い、鏡で全身を確認する。
「・・・よし」
私は一人そうつぶやくと、鞄を手に部屋を出て、家の中を回った。
窓の鍵はかかっているか。ガスの元栓はしまっているか。照明は切れているか。
一つずつ確認してリビングに入り、父さんが作ってくれたお弁当を鞄に入れる。
これで準備万端。後は出かけるだけだ。
私は見落としがないか脳裏で確認しながら、リビングの棚におかれた写真立てに目を向けた。
木枠の中、ガラスの向こうで、若い女性が微笑んでいた。
私に少しだけ似た、私より年上の女性。
「行ってきます、ママ」
写真の中で微笑むママにそう告げた。
玄関に鍵をかけ、遅刻をすることもなく私は学校に着き、いつも通り授業を受けた。
金曜日、週末と言うこともあって、昼休みともなるとクラスメートたちは皆どこか浮ついた雰囲気を醸し出していた。
「ねえ、今日の放課後、一緒に出かけない?」
一つの席に友人同士で集まり、一緒に昼食を取っていると、友人の一人がそう口を開いた。
「駅前に新しい服屋ができるらしいから、みんなで偵察にいこうよ」
「えー?オープンしてか
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