秋の半ば頃、村の原っぱで少年は二匹のカマキリを見つけた。
細長く鋭角的な姿に、両手に武器を備えたカマキリは、少年の好きな虫の一つであった。
だが、少年が見つけたカマキリは、少々様子がおかしかった。
普通ならば、カマキリはチョウなど他の虫を大きな鎌でとらえて食べる。
だがその二匹は違った。体格の大きな一方が、小柄なもう一方を捕らえ、かじっているのだ。
小さい方の抵抗もむなしく、すでに頭はなくなっていた。
「うわぁ・・・共食いかぁ・・・」
少年は、残酷きわまりないカマキリの食事にかすかな恐怖を抱きつつも、ある種の怖いもの見たさに目を離せなかった。
「おいどうした?」
少年の横から、彼の友人が声をかけた。
「カマキリ見つけたんだけど、共食いしてるんだよ。餌がないのかな?」
「共食い?バッタやらいくらでもいるだろうに・・・」
興味を引かれたのか、友人も少年の側に屈み込んで、二匹のカマキリを見た。
「ああ、こりゃ共食いじゃないよ。コービだ」
「コービ?」
友人の言葉に、少年は首を傾げた。
「ほら、このカマキリの尻尾の先、くっついてるだろ?」
友人の言うとおり、二匹の膨れた腹部の先端は、くっつきあっていた。
「デカい方がメスで、卵を生むためにコービしてるんだよ」
「へえ・・・でも、何でメスはオスを食べてるんだろう」
「それは、卵を作るための栄養が必要だからだよ。だから、オスもおとなしく食べられてるんだ」
「ふーん・・・」
メスとその卵のために身を捧げる。
カマキリは虫故恐怖を感じないのかもしれないが、それでもオスの献身は、少年には理解しがたいものだった。
「でも、人間もカマキリも似たもんだって、父ちゃんが言ってた。俺の一生は、母ちゃんと俺たちを食わせるためにあるんだ、ってね」
友人はそう会話を締めくくると、カマキリから興味を失ったのか立ち上がった。
「ほら、森に行ってみようぜ」
「ええ?でも、森は・・・」
足を踏み入れてはならないと、大人たちから口酸っぱく言われているため、少年は友人の誘いに渋った。
「大丈夫だって。それに、何年か前に森でデケエバッタ掴まえた奴がいるって、兄ちゃんから聞いたんだ。俺たちも掴まえてやろうぜ」
「バッタ・・・」
バッタも、少年にとっては好きな虫の一つだった。
それどころか、ただのバッタではなく大きなバッタだという。
少年の心の天秤は、バッタに大きく傾いていた。
「いこうか」
「そうこなくっちゃ!」
少年の返答に、友人は嬉しげに応じると駆けだした。
「あ、待ってよ!」
少年が遅れて、友人の背を追って走り出す。
後には、交尾を続けたままオスをかじり続けるメスのカマキリが取り残された。
それから、少年が友人とはぐれ、森の中を一人でさまようのに、一時間とかからなかった。
森に入る前は、『大人たちは楽しい遊び場所に行くのをじゃましている』などと友人と決めつけていたが、今では禁じられている理由がよくわかる。
方向感覚が消失するのだ。
どっちから森に入り、どう進んできたのか、もはや少年にはわからなかった。
「おーい・・・どこー・・・?」
はぐれた友人を探そうと声を上げるが、その声は心細さを表すように細く小さく、木々の間に消えていった。
がさがさと落ち葉を踏みならし、草をかき分けながら少年は足を進めていく。
森を出ようとしているのか、友人を捜そうとしているのか、その両方か。
少年は森の中をさまよっていた。
すると、不意に前方の草むらが小さく揺れ、音を立てた。
「っ!?」
不意の物音に、少年は身をこわばらせた。
風ではない。風の音ならば、頭上の木々の枝も揺れるし、草ももっと広く揺れるはずだ。
だが、先ほどの揺れは、あきらかに何かが揺らした音だった。
「だ、誰・・・?」
少年は足を止め、先ほど揺れた草のあたりに向けて、そう声をかけていた。
「ねえ・・・誰かいるの・・・?」
不安感のあまり、友人だという可能性を忘れ去り、それでいて言葉が通じる相手であるという期待を込めて、彼は呼びかけた。
だが、正面の草むらから、返答するものはなかった。
「リスかなにかだよね・・・」
言葉の通じない動物。それも自分に無害な小動物の立てた音だと、少年は自信を納得させようとした。
だが、自らにそう言い聞かせている間に、彼の傍らの草むらを突き破り、緑色の何かが彼に襲いかかった。
「わ・・・!?」
驚きのあまり悲鳴を途中でかき消されながら、少年は襲いかかってきた何かに押し倒される。
数年分の落ち葉が降りつもってできた地面に、彼は仰向けに横たわった。
「あぁ・・・あ・・・!」
混乱と恐怖に目を白黒させながら、少年は自分に覆い被さる者を見た。
それは、美しい顔立ちの女性だった。
少年より年上の、大人に足を踏み入れた、緑髪の女性。
こめかみの上のあたりに、楕
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