(92)グリズリー

朝を過ぎ、昼と呼ぶにはやや早すぎるほどの時刻、グリズリーのウィナは途方に暮れていた。
友人の巣穴の出入り口から出ようとしたところで、腹がつかえてしまったのだ。
前に進もうにも尻がじゃまで、後ろに退こうにも腹が穴の縁に食い込む。
朝食を平らげ、出かけようとしたところでこうなってしまったのだ。
「おかしいよなあ・・・入るときは入れたのに・・・」
「それはね、キミが我が家の朝食をアホみたいに食べたからだよ」
ウィナのつぶやきに、やや高い声がいらついた様子で答えた。
「あぁ、キミか。こんにちは」
ウィナは視界に入ってきた、ワーラビットの友人に、のんきに挨拶した。
「なにを言っているんだキミは。私はさっきまでキミのオケツとにらめっこして、どうやってキミをここから出したものか考えていたんだよ。全く、勝手口がなかったら生き埋めだったよ」
ワーラビットは、ウィナに対してイラついた声でまくし立てると、ふと言葉を切った。
「それでウィナ。どうやってキミはここから出ていくつもりかい?」
「うーん、前に進んでも後ろに進んでもだめだったから、今度は両方いっぺんに動いてみるつもりさ」
「・・・ちなみに、両方の方向に向けていっぺんに動いたら、キミは前と後ろ、どっちに進むと思う?」
「両方だから、この場で動けないよ」
ウィナはワーラビットの問いかけに、ハハハ、と笑った。
「ウィナ・・・ここは私の家で、私の旦那さんの家だ。キミが自分の家で身動きがとれなくなったのならば、多少同情はする。だけどキミは、今ボクがどんな気分かわかるかい?」
「うーん、『お昼はなにを用意してあげようかしら』かなあ?」
「夕方までにキミを片づけないと、旦那さんを裏口から迎えることになる、だよ」
声に微かな震えを含めながら、彼女は正解を口にした。
「私の為にがんばってくれてる旦那さんを、裏口から迎えるというのがどういう気分かわかるかな?」
「うーん、確かにボクも正面玄関の方が好きだなあ。あぁそうだ、キミの家は裏口が大きいから、今日からそっちを正面玄関にすればいいんだよ」
「そういうことを言ってるんじゃないの。キミがじゃまだから、どうにかしたいって言ってるの」
ワーラビットは一通りそういうと、ため息混じりに頭を振った。
「はぁ・・・何でウィナが正面玄関から出ようとしたとき、止めなかったんだろう・・・」
「それは、キミもボクがこの穴を通り抜けられるって、信じていたからだろう?」
「黙れ熊の格好をしたオーク」
イラだちが頂点に達したのか、ワーラビットの口から異常に低い声が紡がれた。
すると、不意に二人の背後に新たな足音が近づいた。
「やあウィナ、マーチ、こんにちは」
ワーラビットとグリズリーが目を向けると、人間の少年がそこに立っているのに気がついた。
「こんにちは、シェス」
「おはよう、シェス」
「ウィナ、もう少ししたらお昼だよ?おはようじゃなくて、こんにちはじゃないの?」
少年が、グリズリーの挨拶にそう首を傾げた。
「ボクにはまだおはようだよ。だって、朝ご飯は食べたけど、お昼前のおやつがまだだもん」
「ウィナは食いしん坊さんだなあ」
少年は、グリズリーの返答にクスクス笑った。
「でも、マーチの玄関で止まってどうしたの?」
「それは・・・」
「それはねシェス、聞いてよ!ウィナが」
ワーラビットが、少年の問いかけに対し、まくし立てるように言った。
今朝方グリズリーが彼女の家を訪ね、朝食を要求したこと。
朝食を出してやったら、たらふくお変わりを要求したこと。
そして、大きな裏口から入ってきたはずなのに、突然『ボクもあの穴ぐらい通れるよ』といいだして正面玄関に挑み、見事つっかえたこと。
それらを、ワーラビット本人の主観も交えて、彼女は少年に説明した。
「うわー、それは大変だったねえ」
「でしょう?おかげでボクはお昼のおやつを食べられなかったよ」
「私は正面玄関を塞がれているんだけどね」
困ったように言うウィナに、ワーラビットは怒りのこもった視線を向けた。
「とにかく、何とかして助けてあげないと」
「どうやって?」
シェスの言葉に、ワーラビットは問いかけた。
「魔物を集めて、みんなで引っ張るとか?」
「うん・・・それはいいかもしれない」
「じゃあ、森を回ってみんなに声をかけてくるよ」
「いや、私が代わりに出るよ。ワーラビットは、人間より足が速いからね」
「じゃあ、よろしくね、マーチ」
少年がそう頷くと、ワーラビットはくるりと向きを変えて、ぴょんぴょん跳ねていった。
「さーて、マーチが出かけている間に、僕たちもいろいろ試してみようか」
「うん」
グリズリーの側に少年は歩み寄ると、彼女の腹周りにふれてみた。
「うーん、がっちり食い込んじゃってるなあ・・・」
穴の縁は、グリズリーの毛に覆われた腹にしっかりと食
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