(88)ノーム

青空の下、街道を一台の荷馬車が進んでいた。
薄汚れた幌を荷台にかけ、いくらでも代わりがいそうな馬が引く、ありふれた荷馬車だった。
「久々に家族と会うんだよねえ」
馬車に乗り、手綱を握ったまま、ふと男が口を開いた。
「うん、前々から話はしてたよね、この度の目的とか」
「・・・・・・」
男の言葉に、彼の背後の荷台から、無言ではあるが肯定の気配が滲んだ。
「その目的地に向かう前に、家族と合流しようってのが今度の目標なのよ。うん。そういえば家族の話したっけ?オレの家族」
「・・・・・・」
「してなかったかあ」
微かな気配の変化に、彼は空を見上げた。
「とりあえず、オレは四人兄弟なのよ。一応四番目だけど、誰も上下なんて気にしてない。まあ、そういう兄弟」
思いついた順に言葉を紡いでいるのか、彼はつらつらと言葉を並べた。
「まあ、会ってみればとりあえず驚くと思う。これに関してはオレが保証する。驚かなかったらその場でキスしてもいいぐらいだ」
「・・・・・・」
「賭に対するリスクがない?そりゃあ、命とかかけられても困るだろ?それに、どちらかというとオレの立場としては、お前が驚かない方が嬉しい、ってところなんだよ。だからキス賭けたの」
「・・・・・・?」
幌の内側から、疑問符が浮かび上がった。
「まあ、そうなるよねぇ。一言言えば簡単だけど、それじゃあ賭にならないし・・・あ!ハーピーだ!」
不意に男が言葉を断ち切り、青空に向けて腕を掲げた。
「ほらほらほら、あっちあっち!飛んでる!スゲエ高い!」
「・・・・・・!」
荷台の中で、ゴソゴソと蠢く音が響き、幌から褐色の顔がでた。
土を整形して作ったかのような、褐色の美女の顔だ。だが彫像ではないし、動くからと言ってゴーレムでもなかった。
「お、こっち見た!ははは、スゲエ残念そうな顔!」
獲物を探していると思しきハーピーは、荷馬車の男の傍らから覗く美女の顔に、翼を操り向きを変えた。
「残念でしたー!こっちはノームの嫁さんいるもんねー!ゲラゲーラ!」
「・・・・・・」
飛び去っていくハーピーの影に向けて、ノームは無言で大きな腕を掲げ、振った。
夫をハーピーの手から守れたという喜びからではない。
単に、飛び去っていく彼女を見送るためだった。
青空の下、馬車はゆっくりと進んでいた。




それから日が沈んだところで、男は馬車を街道の傍らに停めた。
ノームを馬車から降ろし、馬に餌を与え、野営の準備をする。
ノームが土を使って即席の竈を作り、男がそこで煮炊きをした。
単なるたき火より熱を効率よく使えるため、非常にありがたかった。
「はあ、食ったし片づいた」
早めの晩飯を平らげ、食器や調理器具を片づけてから、男は一息ついた。
空には星が輝いており、横になって空を見ながら眠りの訪れを待つには、ちょうど良さそうだった。
「・・・・・・」
そのままごろりと横になりそう立った男の肩に、ノームが軽く触れた。「ん?ああ、わかってるって」
男は即席竈の前に腰を据えると、薪を火の中に放り込んでから、彼女に向かった。
「今日もお疲れ」
「・・・・・・」
男の言葉に、ノームは軽く頷く。
男がノームと契約してからと言うものの、土壌の操作などの他に、彼は一つの仕事を彼女に任せていた。
それが、行く先の地面の確認と修繕だ。街道の舗装が荒れていないかをノームの力で確認し、小さな穴程度なら塞いでもらっていたのだ。
おかげで男は、ノームと旅をするようになってから車輪を地面にとられたり、モグラの穴に馬が足を落として負傷させたりという事故から無縁になった。
だがもちろん彼女の働きは無償のものではなく、男には応える義務があった。
「さ、足開いて」
「・・・・・・」
義務感など感じられない、どこか楽しげな男の言葉に、ノームは地面に尻をつき、足を左右に開いた。
褐色のすねから膝、そして太腿がきれいなM字を描き、男の視線を両足の付け根に吸い寄せる。
彼女の太腿の間には、軽く閉じた慎ましやかな亀裂が縦に走っていた。
亀裂と言っても、地面に走るひび割れなどとは違い、遙かに柔らかそうなものだった。
「さてさーて、しっつれーいしまーす」
男は、ノームの両足の間にひざを突き、上体を倒して彼女の股間に顔を寄せた。
そして、亀裂に指を触れると、左右にそっと広げた。褐色の亀裂が広がり、内側から鮮やかなサーモンピンクの肉が覗く。
「うん、今日もきれいだ」
「・・・・・・」
男の評価に、ノームは無表情ながらも頬を赤らめ、顔を横に向けた。
「じゃ、いただきまーす」
男は誰にともなくそう言うと、亀裂に唇を寄せた。
まずは亀裂の縁、褐色の肌に数度キスをする。
太腿の根本という、そこまで敏感ではないものの、刺激になれていない箇所へのキスに、ノームはぴくんと体を跳ねさせた。
しかし男は、彼
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