(85)ウンディーネ

街道から少し離れた森の中、一人の男がたき火を前に座っていた。
刺繍で模様の施されたマントを羽織り、水晶の飾りがついた杖を手にするその姿は、旅の魔術師か何かのようだ。
事実、彼は精霊使いであった。そして彼の精霊使いとしての腕前は、彼の傍らに腰を下ろす一人の美女が示していた。
透き通った体の美女。一見するとスライムのようにも見えるが、その理知的な顔立ちと、身に帯びた清浄な気配が彼女がウンディーネであることを示していた。
「ウンディーネ、水をくれないか?」
男が、木製の器を出すと、ウンディーネはその上に人差し指をかざした。
すると、彼女の指先から水があふれだし、器を満たしていく。
「ありがとう」
「・・・」
男の礼の言葉に、彼女は無言で微笑んだ。
男は、器の水に唇をつけると、器を傾けた。
すっきりとした雑味のない、冷えた水が喉を潤していく。
ウンディーネは、器の水を男が飲んでいくのを、じっと見ていた。
男は彼女の視線に、気恥ずかしさを覚えた。ウンディーネの一部を飲んでいるかのような気分になるからだ。
だが、それは違う。彼女の指先から滴った水ではあるが、当たりの空気が含んでいる水分を凝結させたものだ。
だから、彼女自身を構成する水を飲んでいるわけではない。
しかしそれでも・・・
「・・・・・・」
「・・・?」
男がちらりと横目でウンディーネを見ると、彼女は少しだけ照れくさそうに首を傾げて見せた。
「ぷは・・・」
器の水を飲み干し、男は息をついた。
そして、自身の気恥ずかしさをごまかすように、空を見上げた。
木々の間から夜空がのぞいている。
男は、星の位置を確かめると、目的地までもうすぐであることを実感した。
「もうすぐだな・・・」
「?」
男の言葉に、ウンディーネは空を見上げ、男の顔を見、首を傾げた。
「ああ、ごめんごめん。もうすぐで目的地、ってことだよ」
男は、ウンディーネに説明した。
「契約するとき、言ったよね?僕は困っている人を助けるために、君と契約したいって」
ウンディーネは頷いた。
「あれには、もう少し続きがあるんだ。僕には、どうしても助けたい人がいるんだ。その人を助けられるよう、精霊使いとして修行して、君と契約したんだ。そして、その人のいる場所まで、もうすぐってこと」
「・・・・・・」
「ああ、確かに精霊との契約の目的には、その人のことがあったけど、君と契約したのは君のことが好きになったからだよ」
不安そうな表情を浮かべたウンディーネに、男はそう言った。
「君と会う前まで、僕はいろんな土地の水の精霊と会ってきたんだ。だけど、目的のために利用したいって心を見抜かれていたからかな、誰も契約してくれなかったんだ。そして、流れ流れて君と出会って・・・僕は初めて目的のためではなく、君のために契約したくなったんだ」
初めて出会ったとき、契約のため幾度も住処に足を運んだとき、そして契約したとき。
わずかな沈黙の間に、二人の馴れ初めが男の脳裏をよぎった。
「本当に、君に会えてよかった。君と会っていなければ、僕は精霊使いになり切れていなかったんだから」
「・・・・・・」
「僕と契約してくれて、ありがとう」
男は手を伸ばすと、ウンディーネの手を取った。
水で構成された肌が、ひんやりと彼の手のひらに触れる。だが、指はそのまま水に沈まず、弾力を備えた彼女の肌に受け止められた。
男が握ろうとし、ウンディーネが握られようとしなければなし得ない触れ合い。
ウンディーネの心地よい冷たさと、男の手の温もりを、二人は感じていた。
「・・・・・・」
ウンディーネは、するすると尻を構成する水を操り、腰を浮かすことなく男のそばに移動した。
手を握ったまま、男と彼女の肩が触れ合い、太腿が接する。
男は、彼女の手を持ち上げると、そのまま二人の太腿がふれ合う場所におろした。そして、ウンディーネの瞳を見つめた。
当たり前のことだが、彼女の瞳は濡れていた。ただ、その瞳は普段以上に潤んでいるように見えた。
男は、そっと彼女に顔を近づける。すると、ウンディーネは目蓋をおろして待った。
一瞬の間をおいて、彼女の唇と男のそれが重なりあう。
「・・・・・・」
パチパチと、薪のはぜる音を背景に、二人は静かに接吻した。
男の唇をウンディーネの唇がぬらし、わずかな水分が彼の校内に入り込んでいく。
ウンディーネを成していた水は、男の唇を軽くなでると、歯の間から舌へと移った。
唾液に濡れる軟らかな肉を、小さな水の滴がくすぐっていく。
「ん・・・」
口内を転がる水滴に、男はウンディーネの意図を悟ると、彼女の唇により強く自分の唇を押し当てた。
二人の口が開き、男はウンディーネの唇をしゃぶるように吸った。ウンディーネは男の吸いつきに、彼の口内に多くの水を送ることで答えた。
彼の口内で水が凝縮し、舌を
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