魔物と人が共存する町。その一角、商店が建ち並ぶ通りを、一組の男と魔物が歩いていた。
荷物の詰まった袋を両手に下げる男と、四本の脚を地面についたケンタウロス種の魔物だった。
白い肌に、淡い色合いの金髪。そして額から延びる一本の角。魔物は、ユニコーンだった。
「だから、私が持ちますよ?」
「大丈夫だって。女の子に重いものは持たせるなんて、男として失格だろ?」
馬体に載せた荷物用の鞍を示しながらのユニコーンの言葉に、男が応える。
「それに、赤ちゃんできたら、あんまり重いものを載せられないだろ?」
「そ、そうですけど・・・」
赤ちゃん、という言葉が男の口から飛び出し、ユニコーンは口ごもった。
そしてかすかに恥ずかしそうに、通りを行き交う他の人や魔物の様子をうかがう。
「今の内から僕が練習しておかないと」
「で、でも・・・今は大丈夫ですから・・・」
「僕たちが気がついていないだけで、もういるかもしれないよ?」
「え・・・?」
男の一言に、ユニコーンが目を見開く。
「ほら、先月とか、結構激しかった」
「や、やめてください!外ですよ!?」
あらぬことを口走ろうとする男の口を押さえながら、ユニコーンが声を上げる。
「えー?でも、もし本当に赤ちゃんがお腹に」
「わかりました!わかりました!荷物は任せますから!」
ユニコーンの手をのけながら、なおも夫婦生活と妊娠について語ろうとする男に、彼女はついに折れた。
「うん、それでいい」
「もう・・・」
夫婦のやりとりを耳にしていた周囲の通行人がクスクスと笑い、ユニコーンは頬を赤らめて顔を伏せた。
やがて二人は商店街を抜けて住宅地に入った。
今夜はなにが食べたいだの、今度はどこに出かけようだのを繰り返しながら、一軒の家に入っていった。
「ただいま、と」
「おかえりなさい」
男が声を上げながら玄関をくぐると、後に続いたユニコーンがそう返した。
「さーて、買ったものは食料庫でいい?」
「あ、それなら私が片づけておきます。代わりに、お風呂の掃除をお願いします」
「分かった」
男はユニコーンとともに台所に向かい、調理台の上に提げていた袋をおいた。
「で、風呂はどうする?」
「今日はお買い物で汗かきましたし、もう入っちゃいましょうか」
「じゃあ、準備ができたら呼ぶから」
「分かりました」
ユニコーンがにっこりほほえんでうなづくのを見届けると、男は風呂場へ向かった。
数十分後、男は浴室の掃除を終え、風呂を沸かす準備をしていた。
浴室はユニコーンが入っても楽に身動きがとれるほど広く、掃除のしがいがあった。
男の働きによりピカピカになった浴槽には水が張られており、風呂窯で起こしている火によって徐々に湯に変わりつつあった。
「んー・・・こんなものかな」
浴槽の湯をかき混ぜ、軽く手を差し入れると、じんわりとした温もりが感じられた。
もうそろそろ入れそうだが、冷める分を見越してもうしばし火を焚いておこうか。
「準備できたよー」
ユニコーンが風呂の準備にかかる時間を考え、男は先に彼女を呼んだ。
「はーい」
「もうちょっと沸かしておくから、ゆっくりでいいよー」
「はーい」
ユニコーンはそうやりとりを交わすと、ごそごそと準備を始めたようだった。
男は浴室を出て風呂窯に向かい、火の様子を見る。
薪の火はだいぶ弱まっており、もう少し風呂を温めるには足りなさそうだ。だが、大きな薪をつっこむほどではない。
男は傍らに積まれた薪を眺め、適当な木片を探した。
すると、浴室の扉が音を立てて開くのが響いた。
「あら?あなた?」
「ああ、こっちこっち。もう少し沸かしてから入るから」
ユニコーンの戸惑いの声に、男はすぐに浴室に向けて声をかけた。
「それでは、お先に失礼しますね」
浴室の壁に刻まれた、湯気を逃がすための穴からユニコーンの陰が揺れるのが見えた。
遅れて、浴槽の湯を桶に取り、体に浴びせる音が響いた。
「んーコレにするか」
男は、薪の中から適当な大きさの一本を選ぶと、風呂窯の火の中にそっと入れた。
軽く火かき棒で位置を整え、薪が燃え上がるのを確認する。
この規模の炎なら、風呂の湯が程良く温まったところで消えるだろう。男はそう踏むと、風呂窯近辺に燃えるものがないことを確かめ、風呂窯の前を離れた。
そして、脱衣所に向かって衣服を脱ぐと、彼は浴室の扉の前に立った。
「入るよー」
ユニコーンを驚かさぬよう、一声かけてから扉を開く。
すると、ユニコーンが脚を畳んで浴槽の隣に馬体を下ろし、頭を洗っていた。
「あ、お風呂の準備ありがとうございました。いい湯加減ですよ、あなた」
淡い金色の髪を泡で包み、白い角を泡の間から覗かせながら、ユニコーンが男に顔を向ける。
ただし、その両目はしっかりと閉ざされていた。
「ん、ちょうどよかったな。頭をすすごう」
「あ
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