日差しが暖かく、気持ちのいい日だった。
特に用事もないため、庭先にイスを引っ張りだし、日の光に当たりながら本を読んでいた。
幾度となく読み返した、なんということのない内容だが、こういう日にはちょうどいい。
風が頬を撫で、日の光が全身に降り注ぐのを感じながら、ページをめくる。
文章を目で追うと、次の展開が脳裏に浮かんでくるが、文章が浮かぶほどではない。
一言一句漏らさぬよう、文字を読んでいく。
すると、がさがさと草をかき分ける音が響いた。
顔をそちらに向けると、庭の一角、裏の森へに面した柵の向こうに、少女が一人たっているのが目に入った。
緑色の短髪で、ふわふわとした綿毛のようなもので胸から膝までを隠している、小さな少女だ。
「わはー?」
柵の向こうから、彼女がそう問いかけた。
楽しくてたまらないといった様子で目を細ているようにも見える表情のまま首を傾げる様子は、なかなか可愛らしかった。
本を閉じ、イスとともに引っ張りだした小さなテーブルに置くと、少女に向けて手招きした。
「わははー!」
少女は手招きに声を上げると、柵をくぐって庭に入った。
そしてとてとてと短い手足を振りながら駆け寄ると、イスに飛び乗ってきた。
外見通り、綿毛のように軽い体重が微かな衝撃とともに膝の上に乗る。
「わーはー」
少女は向きを変えると、桃の上に尻を乗せ、据わりのいい場所を探るようにもぞもぞと脚を動かした。
彼女が楽に腰掛けられるよう、少しだけ脚の位置を調節してやると、満足したのか動きを止めた。
「わはは」
体をひねり、こちらを見上げながら彼女が笑う。
彼女の糸目に微笑み返すと、テーブルの上に置いていた本を取った。
そして彼女と一緒に読むような姿勢で、本を広げる。
「わはは?わはは、わーはー」
一緒日本を呼んでいるような姿勢がよほど嬉しいのか、少女は楽しげに声を上げた。
少しだけ集中は乱れるが、邪魔になるほどではない。
いわゆる、『お日様のにおい』が立ち上る彼女の緑色の髪の毛に手を乗せると、その柔らかな髪を撫でながら文字を読み進めていく。
「わはは・・・」
頭を撫でられるのが心地よいのか、少女は声を漏らした。
そのまま撫で続けると、彼女の声が小さくなり、徐々におとなしくなっていく。
髪の間に手櫛のように指を梳き入れる訳でもなく、単に髪の流れに沿って手を動かしているだけだ。
だが、それだけで少女は十分な安心感を得ているのか、体重をこちらに預ける。
「すーすー・・・」
やがて響いてきた寝息に、微笑みが自然と浮かぶ。
心地よい重みを膝の上に感じながら、ページをめくった。
日が傾き始めた頃、本を読み終えた。
表紙と裏表紙に手を当て、勢いよく本を閉じると、ぱたんと小気味いい音が響いた。
「わはっ!?」
おとなしく寝息を重ねていた少女が、本を閉じる物音に体を跳ねさせ、きょろきょろと左右を見回した。
どうやら寝ぼけているらしい。
安心させるように頭に手を乗せ、軽く緑の髪を撫でてやると、彼女はこちらを見上げた。
「わはー」
思い出してくれたようだ。
ぽんぽん、と彼女の頭を軽く撫でてから、本を傍らのテーブルに置く。
すると、何かの気配を察したのか、少女も地面に飛び降りた。
「わははー」
立ち上がり、イスを抱えると彼女はぱたぱたと玄関に駆け寄り、ドアを押し開いてくれた。
どうやら手伝ってくれるらしい。
非力ながらも、割と助かる彼女の手伝いにより、イスとテーブルはあっという間に片づいた。
庭に忘れ物がないか最後に確認していると、少女はドアを開けたまま声を上げる。
「わーはー!」
どうやら急かしているらしい。確かに、彼女の細腕では、ドアを開けたままにしているのは辛いだろう。
玄関から家にはいると、彼女はドアを閉めた。
すると、くぅ、という小さな音が家の中に響いた。
「わは・・・」
ふわふわした綿毛に覆われたおなかを押さえながら、少女が声を漏らす。
少し早いが、晩飯にするとしよう。
「わはは」
台所に向かうと、彼女が後を付いてくる。
そして台所に入るなり、彼女は私とともに調理台の前にたった。
もっとも、背丈が足りないせいで、調理台の上には目どころか頭の先の方しか出ていない。
「わはは!わはは!」
立派に手伝いでもするつもりなのか、少女がはしゃぐ。
だが、彼女に手伝ってもらうことはない。昼飯の時に準備していたスープがすでにあるからだ。
丸くて平たい溶岩石を数度たたくと、溶岩石が熱を帯び始めた。
スープ鍋を石の上に置き、軽くかき混ぜる。
昼に仕込んだおかげで完全に冷めていたスープが徐々に熱を帯び、いい香りを放ち始めた。
「わは・・・」
野菜と肉、そして香草の醸し出すスープの香りに、少女が声を漏らした。
同時に、台所にきゅうぅぅぅ、と先ほど玄関で聞いたものより長い音が響いた。
「・
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