(62)オーク

とある町の一見の小さな家に、一体のオークが住んでいた。
乳や尻はもちろん、腹や太腿、二の腕に背中に腰回りにと、いろいろなところに程良くお肉が付いた年頃のオークだ。
彼女は野生のオークの群で育ったわけではなく、この町のオークと人間の両親に育てられた。
しかし、両親の愛を一杯受けて育った彼女は今、愛の鞭の一環で一人暮らしをさせられているのだった。
一通りの家事は出来るものの、それでも一人で何もかもをやらねばならないと言うのは辛く、忙しい。
彼女は毎日、目の回るような思いで洗濯や掃除をこなしていた。
「ふー、お洗濯おしまい・・・」
物干し竿で揺れる自分の寝間着や普段着を見上げ、彼女は額に浮かぶ汗を拭った。しかし汗は次から次へと浮かび、額を流れ落ちていく。
「あつーい・・・」
シャツの襟を摘んで動かし、服の内側に空気を取り込む。同時に髪の間から覗く、折れ曲がった耳をぱたぱたと動かし、彼女は涼を求めた。
気温はそう高くなく、むしろ涼しいぐらいである。しかし、掃除や洗濯などの全身運動で高まった体温は、気温をものともしなかった。
多少家事をさぼれば、ここまで辛くはないのだろうが、それでは両親の抜き打ちチェックが恐ろしい。
家事をしたくない、と言うわけではないが、せめて手伝ってくれる人が一人ほしい。
それが彼女の気持ちだった。
「ちょっと体拭いて、それからお買い物に行こうかな・・・」
店が開くまで、もう少し時間がある。その時間の活用について考えながら、彼女は家に戻った。
そして、桶を手にすると、体を拭うための水を汲むため、共用の井戸にむかった。
家を出て少し歩くと、すぐに近隣の住民が使っている井戸に着いた。彼女は桶を井戸の傍らに置き、ロープの付いたバケツを、石組の縦穴に降ろしていった。するとロープを伝わってバケツが水に触れる感触が、彼女の手に伝わった。
「よいしょ・・・と」
ロープを引き上げ、水の入ったバケツを持ち上げる。結構力のいる作業であったが、オークの彼女にしてみればそう辛いものではなく、何より井戸の底から吹き上げてくる冷たい風が心地よかった。
「よい、しょ・・・あ〜ちめたい」
井戸の縁まで引き上げたバケツを、石組の縁の上に置くと、彼女は水に触れてそう呟いた。
このまま頭から水を被りたい気分だったが、一応ここは外だし、せっかく汲み上げた水が一瞬でなくなってしまう。
「いったん帰って、体拭いてすっきりして、お買い物〜♪」
言葉に調子をつけながら、彼女は桶に水を注ぐと、井戸を離れた。
冷えた地下水は、こうして持っているだけでも彼女に涼を与えてくれた。早く家に戻って、その恩恵に与らねば。
「ん〜る〜るる〜♪・・・ん?」
ふと、オークの耳がぴくんと動き、彼女は足を止めて振り返った。
一瞬人の気配と視線を感じたのだが、気のせいだったのか通りの向こうを歩く人影ぐらいしか見えない。
「・・・?」
彼女は首を傾げてから正面を向き、家に向かって歩いていった。
やがて彼女は家に戻り、玄関から部屋に入っていった。台所の流し台に桶を置くと、彼女はタオルを二枚と着替えを出した。
そして、汗に濡れて肌に張り付くシャツや、腰回りの汗で濡れたショートパンツを脱ぎ捨てる。
肉が付いて少しだけ垂れた腹の下に食い込む白いパンツと、カップに乳房を詰め込まれて背中にひもを食い込ませるブラジャーが露わになった。
「ふ〜」
衣服を脱いだことで、多少の不快感はなくなった。
後は肌にへばりつく汗を濡らしたタオルで拭い、乾いたタオルで水分を拭き取れば完璧だ。
彼女はタオルを一枚とると、桶の水にジャブジャブと浸した。
「ん・・・?」
再び、うなじの辺りを駆け抜けた感覚に、彼女は顔を上げた。
誰かに見られている気がする。しかし、ここは家の中だ。自分の他には誰もいない。
「・・・・・・っ!」
彼女は少し考えてから、勢いよく台所を離れ、まっすぐに玄関に向かってドアを開いた。
すると、ちょうどドアの前に少年が一人、屈み込んだ姿勢で彼女を見上げ、目を丸くしていた。
どうやら、ドアの鍵穴から家の中を覗き込んでいたらしい。
「あ・・・」
「見ーつけた。知ってる?覗きは犯罪よ」
オークの一言に、少年の目元にジワリと涙が浮かぶ。
「まあ、私も鬼じゃないから、町の警備隊に突き出しはしないけど、次やったら・・・」
「ご、ごめんなさい・・・オークさん、ごめんなさい・・・」
「ちょ、ちょっと何泣いてるの・・・」
今回は許してやる、というオークの言葉にも関わらず、ぼろぼろと涙をこぼし始めた少年に、彼女は慌てた。
「覗いてたわけじゃなくて・・・オークさんを待ってたら、いつ出てくるか気になって・・・」
「結局覗いてるわよね、それ・・・」
少年の涙ながらの言い訳を聞く内、彼女はふと少年が手に何かを握りしめているのか気が付い
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