中央教会の支配下、人間達が肩を寄せて暮らす街があった。
レスカティエには劣るものの、それなりに規模は大きい。
そして街の一角、大きな屋敷が並ぶ区域に、広々とした屋敷があった。大きな窓をいくつも備え、風通しを良くしたその造りは、砂漠の国でよく見られる様式だった。
屋敷の庭や、庭に面した部屋や廊下には、目つきの鋭い男が要所要所に立っている。どうやら、身分ある人物の邸宅のようだ。
しかし屋敷の奥に進むと見張りの姿はなくなり、代わりに妙に甘ったるい匂いが立ちこめていた。
屋敷のほぼ中心部、どの窓や入り口からも離れた一室に入ると、四人の男がいた。
三人は円筒形の容器を囲んで座っており、容器から延びるチューブを口に咥えていた。子供の背丈ほどの容器の蓋からは、か細く甘ったるい匂いを放つ煙が立ち上っている。
そして、三人から少し離れたところで、もう一人の男が彼らを見ていた。ひげを生やし、精悍な顔つきをした若い男だ。
男は、三人が容器から煙を吸っては吐き出すのを見つめていたが、ふと彼らの向こうに目を向けた。
そこには祭壇のようなものが設けられており、その上に小さな像が一体乗せてある。一般的によく見られる聖人像ではなく、探検を片手に握った男の像であった。
「どうだ?」
不意に部屋の入り口から声がかかり、男がそちらに向き直ると、ちょうど壮年の男が一人入ってくるところだった。
裕福な商人然とした装いだが、首には教団のシンボルが下げてあり、彼が教団関係者であることを示していた。
「はい、もうすぐ『出来上がる』かと」
「そうか」
壮年の男は彼の言葉に頷いた。
「今度こそ失敗は許されぬぞ」
「心得ております」
若い男はそう頷くと、三人の方に歩み寄った。
「もういいだろう。立て」
「はい…」
三人の男は、口に当てていたチューブを床に置くと、立ち上がった。
「師長さまの前に立て」
「はい…」
三人は、一瞬よろめきながらも容器の傍を離れ、壮年の男の前に並んだ。
「お前たちは正義の者か?」
「私達は正義の者です」
師長の言葉に、三人が口をそろえて答えた。
「お前達の正しさは何によって証明される?」
「私たちの正しさは主神教団、暗殺団グリーカ・ルファベトの一員であることによって証明されます」
「主神教団の正義の証は?」
「主神への信仰と、天より吊るされた糸のごときまっすぐな行いこそが証です」
「お前達の手には何がある?」
「祝福された聖なる短剣です」
「お前達はそれで何をしようとしている?」
「魔に屈し、主神に仇なす愚かなる裏切り者、アスーム・ムジャの抹殺です」
「よろしい。行って来い」
「はい」
三人の男は、部屋の入口に向けて駆け出して行った。
壮年の男と、髭の若者は、彼らを静かに見送った。
『ベドラムを出た後は手の震えも完全に治まり、妻と完治を喜びました。今はポローヴェの一角に部屋を借り、妻と暮らしています。
ポローヴェに御用の際は、是非お立ち寄りください。夫婦ともども、歓迎いたします』
「ええい、またか!」
広げられた便箋を、机に叩きつけながら壮年の男は声を荒げた。
三人の男を放って一月過ぎたところで、手紙が届いたのだ。手紙の内容は、暗殺には失敗したが、伴侶を手に入れ幸せに暮らしている、と言う物だった。
「まさか、三人とも一度に敗れるとは…」
「三人には別々ルートで対象に接近するよう命じていたのですが…」
師長の机の上の、三通の手紙を見ながら、髭の若い男はそう続けた。
「一体何が起こっている?これで六度目、二十人の優秀な暗殺者が、魔物どもに敗れたのだぞ!?教団の秘密の刃、暗殺団の精鋭が、二十人も!」
苛立ちも露わに、師長は声を上げた。
すると、部屋のドアからノックの音が響き、ドアが薄く開いた。
「失礼します…」
頭を剃りあげた若い男が、ドアから禿頭を覗かせた。
「なんだ?」
「六幹部の方が揃いました。皆さま師長をお待ちです」
「そうか、そんな時間か。ジファー、行くぞ」
「はっ」
壮年の男は若い男、ジファーに声を掛け、席を立った。
ジファーは机の手紙を手早くまとめると、師長に続いて部屋を出た。
そしてしばし二人は廊下を進み、広間に入る。広間には長いテーブルが一台置いてあり、既に六人の男が腰を下ろしていた。
男達はいずれも、中年から初老に足を踏み入れたほどの年代で、商人風から軍人、あるいは傭兵風まで様々な格好をしていた。
「諸君、遅くなってすまない。よく集まってくれた」
師長は六人の男に向けて労いの言葉を口にすると、テーブルの空いた席に腰を下ろした。
「堅苦しい挨拶は抜きにして、本題に入ろう。諸君らもご存じのとおり、魔物どもに教区の街が陥落されている。これが、単に攻め入って滅ぼされたのならばまだ納得がいく。問題なのは、信徒が嬉々として主神を裏切り、魔物に寝返
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