妖精を連れていると幸運に恵まれる。
男は、その言葉が迷信などではないことを知っていた。
「ねえねえねえねえ、もうすぐ着く?もうすぐ着く?」
「いや、まだだ」
馬車の御者席で、男は頭の上から響いた甲高い声に、目を向けることなく答えた。
「昨日出たばっかりだから、着くのは明日だ」
目的地までの距離と馬車の速度から、彼はそう続ける。
「だったら今日お泊まりだね!お外でお泊まりだね!」
「そうだな。今日もだな」
前方に続く道をみながら彼は頷いた。
すると、頭の上に乗っていた微かな重みがふわりと消え去り、彼の眼前に小さな影が入った。
背中からチョウチョのような羽をはやした少女だ。ただ、彼女の身の丈は男の頭ほどの大きさしかなく、彼女がフェアリーであることを示していた。
「今日はどこでお泊まりする!?」
フェアリーは問いかけながら男の視界を横切り、彼の肩に腰を下ろした。大きさこそ男の頭ほどあるが、重さはほとんどない。冬場にコートを羽織っていたときの方が、まだ肩が重いほどだ。
「日が暮れるまで進んでからだな」
男はフェアリーの問いかけに、いちいち律儀に答えていた。
面倒くさい、鬱陶しい、などという感情とはとっくの昔に別れを告げていた。
むしろ、町から町へ移動する際のいい暇つぶしになるし、なにより一人きりでないというのがいい。以前は馬に話しかけるばかりだったが、会話できるというのが一番よかった。
「ねえねえねえねえ!次はどんな町だっけ!?」
「次の町はすごいぞ。町の中のあちこちを川が流れていて、道路より川の方が多いぐらいだ」
「だったら、船であっちこっちに移動しているの?」
「そうだ。知っているのか?」
「知らなかった!見てみたい!」
次の町への期待をフェアリーが膨らませ、男がそれに答える。
暖かな日差しの下、一人と一匹と一大の馬車はゆっくりと進んでいた。
そして、太陽が沈み、月明かりが照らす街道沿いに、一大の馬車が止まっていた。
傍らでは焚き火が起こしてあり、男がそのそばに腰を下ろしている。
男は片手に金属製のカップを握り、ちびちびとその中の酒を飲んでいた。
「それでね、おばあさまがね、『全速力でとばすわよ』って!」
「そうか」
あぐらをかく男の太股の上に腰を下ろしたフェアリーガ、彼に向けておしゃべりしていた。
男は時折相づちを打つが、酒が程良く回っているためか、ほとんどフェアリーの言葉の内容を理解していない。
だが、フェアリーは話せればそれでいいと行った様子で言葉を紡ぎ続け、男も彼女の声音を聞くことに不快感はないようだった。
パチパチと焚き火の中で薪が爆ぜ、あたりをゆらゆらと光が照らす。
すると、不意にフェアリーが口を閉ざした。
「どうした?眠くなったか?」
人間とは違う存在とはいえ、基本的には子供と一緒だ。疲れれば大人しくなるし、突然眠ってしまうことも多々ある。
しかし、フェアリーは彼の太股の上で小さく首を左右に振った。
「違うの・・・ここが変なの・・・」
フェアリーは小さな手のひらでその平らな胸を押さえると、先ほどとはうって変わって大人しい口調で、そう男に異常を訴えた。
「またか・・・」
男は、フェアリーの症状に心当たりも覚えもあった。
「ねえ・・・ちゅーしていい・・・?」
フェアリーが男を見上げ、そう控えめに尋ねる。
「好きにしろ」
「うん・・・」
男が許可を出すが、フェアリーは声を上げるわけでもなく、小さく頷いてから彼の太股から立った。
蝶のような薄い羽を細かく震わせ、彼女は体を浮かべる。そして、男の顔のすぐ前に舞う彼女のため、男は手を差し出した。
男の手のひらの上にフェアリーが舞い降り、羽ばたきを止める。彼女はしばし、手の上でもじもじとしていたが、やがて意を決したように男の方へ歩み寄った。
そして、男の頬に小さな手を触れさせ、自身の唇を彼のそれに重ねた。
「ん・・・」
マチ針の尻ほどの大きさのフェアリーの唇が、男の上唇を幾度も吸う。
小さな小さな唇が、少しずつ場所を変えながら接吻を繰り返した。そして、フェアリーは唇を開くと舌を出し、彼の唇をぺろりと舐めた。
男が彼女に応えるように、唇の間から舌の先端を出すと、フェアリーは舌と舌を触れ合わせた。
フェアリーの甘い舌先が、男の味覚を刺激する。
そして、唇を吸い、舌を舐めを繰り返したところで、フェアリーは男から顔を離した。
「落ち着いたか?」
「・・・・・・」
フェアリーは顔を赤らめたまま、顔を左右に揺すった。
「まだ、変なの・・・ここがきゅんってして・・・」
平たい胸を覆う衣服を両手でつかみながら、彼女はそう男に訴える。
どうやら、無自覚に蓄積されたフェアリーの性欲は、本気で対応しなければ処理しきれないようだ。
「わかった」
男は彼女に応えると、フェアリーを乗せているのとは別の手で
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