姉がエルフの里を出たと聞いたとき、私の胸に生じたのは、申し訳なさだった。
魔力に侵され、肉欲に素直になった体を持て余し、私が里を出たのはいつの頃だっただろうか。双子のため顔こそ瓜二つなものの、私より意志の強かった姉を残して、里を出てしまったことが今更になって悔やまれる。
あのころ、姉が肉欲の赴くまま自分を慰めていた私を見下していたのは、単に姉が魔力に侵されていなかったからだと思っていた。しかし、私と姉は双子だ。私が肉欲に苛まれているとき、姉も体の疼きに耐えていたのだ。
唯一の違いは、私が素直で、姉が強情だっただけ。その結果、私は自ら故郷を立ち去り、姉は遅れて里を追われたのだ。
あのとき無理矢理にでも姉を連れ出していれば。私の胸に、後悔が湧き起こる。
だが、今更悔やんだところで、どうすることもできない。私にできることはただ一つ。生来の気の強さのため、自らを素直に受け入れられない姉を、素直になれるよう手伝うことだった。
「まったく、いい格好ねえ」
私の言葉に、私の姉である目の前のエルフは奥歯を噛みしめた。
微かにぎりり、と歯の擦れる音が響くが、手足を縛られた状態でいすに座らせているため、威嚇にもならない。
私がいるのは、地下牢めいた一室だった。石積の壁が私の左右と前方を囲んでおり、背後は黒いカーテンで仕切っている。
そして、私と向かい合うように、白い肌のエルフが座っていた。一糸纏わぬ姿でいすに座らせられているため、そこそこの大きさの乳房も、両足の付け根の金色の茂みも、よく見えていた。
もちろんさっきまで着ていた彼女の服は、皺にならぬよう丁寧に畳み、別の部屋においている。また、彼女だけ全裸というのも可哀想なため、私も下着姿で姉に向かい合っていた
「あら、その目は何かしら?久々の姉妹の再会だっていうのに」
「黙れ。自ら魔に身を投じたお前なんか、私の妹じゃない・・・!」
私と全く同じ顔をした、今も双子の姉だと思っているエルフが、そう告げた。
私はこみ上げてくるおかしさに、くすくすと笑った。
「何がおかしい!?」
「いえ、だって・・・エルフの里から追い出されたのに、自分は一丁前のエルフだって顔してる姉さんがおかしくて・・・」
ほんの冗談のつもりだったが、姉はショックを受けたような表情を浮かべた。。
「ち、違う・・・私は、遅かれ早かれお前のようになると思って、みんなに迷惑をかけぬよう自分の意志で・・・」
「そうね、自ら魔に身を投じたわけね・・・私みたいに」
少しだけ意地悪をしてやろう、と私は姉の言い訳にそう返した。。
「そのくせ、ダークエルフの集落にやってくるほどの度胸もなく、孤独感に苛まれて人里近くに住み着いて・・・もう少ししたら、体の疼きを癒すために、夜な夜な人里に降りてたんじゃないの・・・?」
「ち、ちが・・・」
姉の言い訳を先回りしてやると、姉はただ否定するばかりだった。
「じゃあ、あなたが森で会っていた男はなに?」
「っ!」
姉の行方を調べるうち、浮かび上がった人間の男のことを口にすると、姉は目を見開いた。
「なぜ彼を・・・」
「ふふ、山菜摘みやキノコ狩りにかこつけて、週に三度も会っていたらわかるわよ」
気高く人間など見下しているはずのエルフが、頻繁に人間の男と会っている。私としては喜ぶべきことだったが、当の姉はあまり自覚がなかったらしい。週に三度、という私の表現に、彼女は目を泳がせた。
「今はまだ手も握ったこともないみたいだけど、そのうち彼でキノコ狩りしちゃうつもりだったんでしょ?きゃーやらしー」
あの強情な姉が、私の言葉に動揺している。久々の再会の喜びに、姉の反応のおもしろさが加わり、私は思わずそう冗談めかした口調で行ってしまった。
「ち、違う・・・!私はそんなつもりじゃ・・・」
「そうね、いつも姉さんが正しくて、周りが悪いのよね。だから今度も、あの男が我慢できずに襲ってくるまで待ってたんでしょ?」
私は言葉を紡ぎながらカーテンから離れ、姉の方に歩み寄った。
「里を追い出されたのも、双子の妹がダークエルフになったから。あの男と会っているのも、彼が一人じゃ山菜もろくに採れないから。そしていつ襲われるかわからないのに度々会っているのも、彼がそんなことしそうにないように見えるから」
おそらく姉の肉体は、ほぼサキュバスのそれと同じぐらいになっているはず。だとすれば肉体の疼きは酷いものになっており、意志力で押さえつけるのは限界に近いだろう。だとすれば姉は、自身の理性が許容できる、『興奮した男に襲われる』という方法で肉欲を発散させることを無意識に選んでいたのだろう。
姉の眼前で腰を屈め、顔を覗き込みながら、私は続けた。
「そうやって、自分はいつも正しいと思っているのよね」
「そんなつもりじゃ・・・」
「いや、悪いって言ってるわけじ
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