仕事を終え、帰路に着く。
少しだけ遅くなったが仕方ない。昨日は妻との記念日ということもあって、少し早めに帰してもらったからだ。
昨日はつぼまじんである妻に、密かに俺が焼いた壷をプレゼントした。彼女は涙を流して喜び、十数分かかって『ありがとう』と俺に伝えた。正直、そこまで彼女が喜ぶとは思わなかったので、俺も苦労して焼いたかいがあった。
「ふふふ」
昨日の彼女の喜び様を思い返すと、自然と笑みがこぼれる。
いろいろ苦労もあったが、彼女と一緒になってよかった。
走行している内に、俺は自宅のすぐそばまで近づいていた。
「ただいまー」
そう声を上げながら玄関をくぐると、たったったっという軽い足音とガンガンと何かがぶつかる音ともに、奥から彼女が姿を現した。
「んぉむぁぇうぃますぁうい」
頭をすっぽりと覆う、昨日贈ったばかりの壷の下から、彼女はそう俺を出迎えた。
なぜそうなった。
とりあえずほとんど周りが見えていないであろう彼女を寝室に誘導してから、俺はそう尋ねた。
くぐもり、不明瞭な彼女の言葉を根気強く解読した結果、もらった壷がうれしくて、頭をつっこんでみたら抜けなくなったという。
「なぜそんなことを」
「わっへはははふぁふふんめくへふぇふひょーひゃむぃふふぁうぃふぇ・・・」
だってあなたが包んでくれてるような気がして・・・。
喜びのあまりの暴走と言ったところだろうか。
「外してみよう・・・痛かったら言って」
穴の縁から手を差し入れ、彼女の首筋や顎のラインを引っ張ってみる。
「ひひゃ・・・!」
「痛い?大丈夫か」
「むぁいひょる・・・ふふふぇへ・・・」
だいじょぶ、続けて。
彼女はそう言うものの、いくらか力を加減しながら、壷を持ち上げようとした。
しかし、頬の肉が引っかかると言ったレベルの話ではないらしく、後頭部の骨格の膨らみや、顎の先端が完全に引っかかっていた。
「参ったなあ・・・これは割らないとだめだ・・・」
「ひょんふぁ・・・」
壷の下から、愕然とした様子で彼女がそんな、と言った。
「正直なところ、どうやって頭を入れたのかわからないぐらいカッチリはまりこんでいるんだ」
「ふぉがぬぃふぉふふぉふあひゃひふぉ?」
「うーん、割るか切断するか削るか・・・いずれにせよ、壷をどうにかしないとだめだね」
「ふぉー」
彼女はがっくりと肩を落とした。
「とりあえず、今から職場に行って道具を借りてくる。少し待って・・・」
「ひゃひゃ、ふぁっへ」
やだ、待って、と彼女は立ち上がろうとした俺の手を握った。
「ふぉふこふぃふぉふぉははぬぇ・・・」
「もう少しこのままって・・・いつまでもそうしていられないだろ?」
「はひは、はひはんぉはふぁなで」
「わかった、明日の朝だな」
昨日俺が贈った壷が、俺の言葉に上下に揺れた。
「で、今日はどうする?飯は俺が・・・いや、無理か」
飯を俺が作るのは全く問題ないが、壷が邪魔で食べられない。穴の縁からストローを差し入れれば、スープぐらいは飲めるかもしれないが。
「ひょーふぁがいりょふ」
「そうか・・・まあ、一晩ぐらいなら大丈夫かな・・・」
彼女の言うとおり、一食抜いたぐらいなら大丈夫だろう。
「じゃあ、風呂にはいるか」
俺の言葉に、壷が上下に揺れた。
風呂を沸かし、全く前の見えない彼女の手を取って、ゆっくり脱衣所に向かう。
穴の縁から足下ぐらいは見えるらしいが、彼女の胸が視界を半分ほど不才でいるためあまり役には立たないらしい。仮に彼女の胸がもっと大きかったら、なにも見えなかっただろう。
「脱げるか?」
「ふがひてぃ」
「わかった」
彼女の腰を覆う大きな壷に手をかけ、肩から下げている鎖を外す。そして、取り落として割らぬよう気をつけながらそっとおろすと、彼女が俺の肩を支えに、壷から足を抜いた。
彼女の両足が脱衣所の床をとらえるのを確認すると、今度は上半身に手を伸ばす。
首筋に腕を回し、薄い胸を覆う前掛けの紐をゆるめ、脱がせてやる。壷がはずれなくなったときの焦りのためか、彼女の前掛けはしっとりとしており、素敵な香りが立ち上っていた。
「・・・・・・」
俺は逡巡を経て、前掛けを脱衣所のかごに入れた。嗅ぐのは後だ。
「さ、入るぞ」
「ふん」
再び彼女の手を取り、風呂場の戸を開けて導いてやる。
身体を撫でる、温もりと湿気を含んだ風呂場の空気に、彼女は大げさに足をあげて敷居をまたいだ。
「そこだ、止まって」
洗い場の中央で彼女を止めると、後ろにいすを置いてやり、ゆっくり腰を下ろさせる。
そして、彼女の尻が収まるよう、いすの位置を調整してやった。
俺の目の前に、彼女の細い背中があった。
「洗おうか?一人で洗えるならそれでもいいけど・・・」
できればその細い背中を丹念に洗ってやりたいという欲求を隠しつつ、俺は尋ねた。
「はらっふぇ」
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録