(30)マーメイド

波打ち際、月の光が照らす浜辺に、一組の男女の姿があった。
寄せては返す波に体を濡らしていることも気にせず、二人は唇を重ねあわせ、互いの体に触れていた。
女が、男の頬を撫でれば、男は彼女の首筋をさする。
男が女の背筋に触れれば、女は彼の日焼けした背中に手を回す。
互いの顔に触れ、唇を寄せ合うために使っていたはずの両腕は、もはや互いの全身を愛撫するのに使われていた。
男の指が、白い布に押さえられている女の胸元に触れる。
女の手が、男のわき腹から太股へと流れるように撫でる。
そして、男の手のひらが、海水に濡れる女の下半身、濡れた鱗に覆われた、魚のような下半身に至った。
「ん・・・!」
人間で言うと腰と太股の境目の辺りから生える鰭に指が触れ、女が小さく声を漏らした。
男は、弾力を帯びた薄く柔らかな鰭を破かぬよう注意しながらも、その形を確かめるように指を這わせ、鰭の付け根に触れる。
ぬめりを帯びた鱗の下、鰭を支える筋肉をほぐすように、彼はそこをやや強くマッサージしてやった。
彼の指先で、鱗の下に隠れていたしこりがこりこりとうごめき、女が時折身を震わせ、声を漏らした。
そして、左右の鰭をたっぷりとほぐしてやったところで、女の方から唇を離した。
「もう・・・気持ちよくしてほしい、ってそう意味じゃないんですけど・・・」
少しだけ怒ったふりをしながら、マーメイドは男に言った。
「分かってる。でも、漁の手伝いへのご褒美だと思ってほしいんだ」
男はそう、彼女に言い訳した。
「ご褒美は気持ちいいことで、って約束したじゃないですか」
「そうだな・・・また明日、『昨日の夜は不満だったの歌』を歌われても困るからな」
月明かりの元、二人は笑った。
そして、男が浮かべていた笑顔を弱め、口を開いた。
「それじゃあ・・・いくぞ・・・」
「はい・・・」
マーメイドが期待を胸に、男の抱擁を受け入れる。
男は、手をマーメイドの背中にのばすと、胸を押さえる布の結び目を解いた。
布の締め付けがゆるみ、濡れた布地が擦れる音を立てながら解け、押さえつけられていたマーメイドの乳房が月明かりに照らされる。
片手に余るほどの、半球の乳房が二つ。そして、柔らかな肉の球体の頂点では、色の薄い乳輪の中心で乳頭が膨れていた。
男は、彼女の乳房に手を触れ、優しく指を沈めながら、先端を擦った。
「ん・・・」
彼の腕の中で、マーメイドが恥ずかしさとくすぐったさの同居する声を漏らし、小さく身じろぎした。
男は、彼女の体を深く抱え込むように腕を回し、わき腹から手をのばして、彼女の乳房に触れた。
そしてそのまま、両手で腕の中のマーメイドを愛撫する。
抱え込むようにした腕で乳房を刺激しながら、先に胸に触れていた手を鳩尾へ移し、そのすべすべとした肌を確かめるように這わせる。
乳房と乳頭への直接的な甘い快感に、時折肌をくすぐる柔らかな刺激が加わり、彼女の意識を小さく揺らした。
「ん・・・ふ・・・」
堪えようとしても声が溢れでて、彼女の体が小さく跳ねる。
同時に、彼女の内側でくすぶっていた情欲の炎が、徐々に燃え上がっていく。
「ん・・・はぁ・・・ぁ、ん・・・!」
男は、マーメイドが大きくあえいだ瞬間、顔を寄せ彼女の唇に自身のそれを重ねた。
男の舌が、不意を付かれたマーメイドの口中に易々と入り込み、歌と言葉を紡ぐ彼女の舌に触れた。
唾液に濡れた軟らかな肉が微かな甘みを帯びていたのは、男の錯覚なのだろうか。
「ん・・・!」
突然のキスに、彼女は小さく喉の奥で声を紡ぐと、男の舌に自身の舌を絡めた。
そして、相手の味を知ろうとするかのように、二人の舌が互いを舐め合った。
そのころ、男の腕は鳩尾からマーメイドの腹にたどり着き、縦長のへそを中心として、すっきりと引き締まった腹を撫でていた。
なめらかな皮膚と薄い脂肪、そしてその下にある腹筋を指先が探り、肌の流れ、筋肉の流れに沿ってたどっていく。
「ん・・・!」
唇を重ねたまま、マーメイドが喘ぎ、蛇のように絡み付かせていた舌が動きを止める。
男はその隙をついて、逆に彼女の舌を自身のそれで擦り、息づかいとともにひくつく腹筋をなぞった。
「ん、ぁ、ぁ・・・」
唇の隙間から、マーメイドの甘い喘ぎ声が溢れ出す。
男は一通り、彼女の力を愛撫によって奪うと、手をさらに下へと移した。
滑らかな肌を這っていた指先が、ぬるりとしたわずかに固いものに触れる。マーメイドの魚体を被う鱗だ。
感想から身を守り、海中での水の滑りをよくするための粘液を指先に絡めながら、彼は鱗と鱗の間をたどりつつ、手を動かした。
そして、人体と魚体の境目から少しだけ下がった場所に、鱗に被われていない場所があった。
直に魚体の滑らかな表皮をさらすそこは、鱗を濡らす粘液や海水とは異なるもので濡れていた。
男は、その鱗に被われて
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