(27)シースライム

海岸を歩いていると、波打ち際に巨大なクラゲが打ち上げられていた。
いや、よく見ると人っぽい格好をしている。シースライムという魔物だろうか?
僕は足を止め、遠目にその透き通った体を見た。仰向けに倒れ伏す彼女は、体と同じように半透明の衣服を身につけており、大きく膨らんだスカートが半分海に浸かっていた。
寄せては返す波に洗われているため、まだ時折見かけるかわいそうなクラゲのように干からびてはいない。
だが、これからだんだん潮が引いてくるはずだ。彼女が砂の上に取り残されるまで時間の問題だろう。
「助けるか・・・」
僕はそう呟くと、シースライムの方へ向けて歩きだした。
そして彼女の傍ら、潮に塗れた砂の上で足を止めると、まじまじとその体を観察した。
青みを帯びた透明な体に、起伏の少ない上半身と、腰のあたりから大きく膨れるスカートに、スカートを透かして見えるほっそりとした足。
目を閉ざし、穏やかな表情で眠っているように見える、その整った顔立ちと共に、まるで高価な美術品のような姿だった。
眠っているように、と表現したのは実のところ彼女の生死がわからないからだ。彼女のなだらかな胸に呼吸の上下は見えない。そもそもスライムって呼吸するのだろうか?
「ま、海に戻してやれば大丈夫だろ・・・」
海は偉大だ。全てを受け入れる。このシースライムが死んでいようと生きていようと、海は受け入れるだろう。
僕は靴を脱ぎ、ズボンの裾を膝まであげると、ざぶざぶと寄せては返す波に足を踏み入れた。ひんやりとした海水が足に触れ、細かな泡がくるぶしをくすぐる。
そして、沖を背にするように彼女の足の方に立った。彼女の足首をつかんで、海に引っ張るためだ。抱き上げてもよかったが、魔物とはいえ意識を失っている女の子にべたべた触れるのはまずいだろう。
腰を曲げて上半身を屈め、海の中に手を入れる。
「ごめんよ・・・」
少しだけ謝ってから、僕は波に揺れる彼女のスカートの裾から手を入れようとした。だが、足首をつかむより先に、僕の手首に何かが触れた。
直後、ちくりと刺すような痛みが走り、手が動かなくなる。刺されたのだ。
忘れていた。彼女は人間のような格好をしていてもやはり魔物。しかもクラゲなのだ。刺すかもしれない可能性を考えておくべきだった。
「ひへぇ・・・」
痛ぇ、と口にしようとしたが、妙に舌と唇が回らない。
それどころか、彼女のスカートの裾につっこみ掛けた手はもちろん、腕や腰、足さえもが動かない。そして全身に妙な痺れが広がっていき、ついに僕は腰を曲げた姿勢を保つことさえできなくなった。
足がぐにゃりと力を失い、シースライムの胸元に顔面から倒れ込む。
目の前に迫っていく、青く平らな胸がどんどん視野一杯に広がり、ついに柔らかな感触と共に顔が胸に埋まった。
「きゃい!?」
肋骨の感触もなく、ただ鼻先からこめかみの辺りまでをシースライムの胸、というか胸部に埋めると同時に、甲高い悲鳴が耳をたたいた。
「わ、わ、わ!?なに!?ここどこ!?え?男の人!?何で!?強姦?強姦!?」
全く状況が理解できていないのか、やたら慌てた様子でシースライムがまくし立て、僕の顔に押し当てられる柔らかな粘体が声にあわせて震えた。
弾力と柔らかさ、そして震えは僕の顔を心地よく刺激するが、それより鼻と口がふさがって呼吸できないのが苦しい。
「え?え?あ!息できないのね!麻痺毒で息ができないのね!」
彼女は胸に顔を押し当てたまま、びくとも動かない僕の状況を察した。シースライムの手が僕の肩に触れ、やや苦労しながらも彼女は傍らに、僕の体を転がした
目の前を塞いでいた半透明の青が空の青に変わり、息ができるようになる。
「・・・生きてる・・・よかったあ・・・」
ゆっくり上下する僕の胸に、シースライムは身を起こしながらほっと息を付いた。
だが、彼女が僕の手首に目をやるなり、その半透明の顔立ちに険が宿った。
「もう、寝ている女の子にいたずらしようとするから、そうなるんだぞ!」
若干プリプリと怒った様子で、彼女はそう僕に向けて指を立てた。
どうやら手首の刺され跡を目にして、彼女は何か誤解しているらしい。だが、弁解しようにも麻痺毒は僕の全身に回り、舌はおろか呼吸の調子を変えることもできそうになかった。
「動けない女の子にいたずらするような人には・・・・・・いたずら、うん、いたずらし返すんだから!」
一瞬何かを考えたような間を挟みながら、彼女はそう宣言した。
そして、その透き通った手を僕の体にのばすと、シャツのボタンを一つずつ外し始めた。
倒れ込んだ際に湿り気を帯び、今も徐々に濡れていくシャツが開き、日の光の元に僕の胸がさらされる。潮風が濡れた胸板を撫で、すこし寒い。
「・・・・・・」
シースライムは僕のシャツから手をはなすと、どこかドギマギとした
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