山にほど近い小さな町に、私の店がある。
扱うものは日用雑貨から保存食、季節によっては裏の畑でとれる野菜などだ。
いつものように、棚に並ぶ商品の向きを揃えていたところ、ベルの鳴る音とともに扉が開いた。
「いらっしゃい」
店の入り口に目を向けつつ、そう声を掛けると、小さな人影が一つ店に入ってきた。
額の辺りから小さな角を生やした、小さな女の子。
肩に大きく膨れた布袋を担いだ彼女は、町近くの山にすむゴブリンだった。
「いらっしゃい、今日は何だ?」
「色々持ってきたよ」
彼女は棚の間を通り抜けると、カウンターの前に立った。
私はカウンターの裏から踏み台を出すと、彼女の側に置いてやった。
「じゃあ見せてくれ」
「分かった」
ゴブリンは踏み台に上って、袋をカウンターに乗せると口を開いた。
そして中から、紐で束ねられた薬草や、干した果物を採りだした。
「ふん・・・」
並べられていく品物の一つ一つを、俺はじっくりと見聞した。
この町の近くにゴブリンの群が流れてきた当初、彼女たちによる被害は多かった。多くがいたずらレベルであるものの、生活に必要な品を持ち去られる事態に、多くの住民が迷惑した。だが、彼女たちが持ち去ったのは彼女たちにとって必要なものだったのだ。山の自然は多くの恵みをゴブリンたちに与えてはいたが、それだけでは生活できないのだ。
そして、紆余曲折はあったものの、ゴブリンの群と住民の間で取り決めが交わされ、ゴブリンたちが山で作った品物を私が引き取り、必要な物を提供するようになったわけだ。
最初のうちは、群れ全員で店に押し掛け、「あれはなに?」「なにこれ?」などと興味津々に見ていた彼女たちだったが、今ではこの一人だけしかこない。
まあ、その方が私としても仕事がはかどる。
「干した果物に、香草七種。よく磨いたきれいな石と、押し花の栞・・・」
手作りの品物を並べ、一つ一つに頭の中で買い取り価格をつけていく。実際に金銭は渡さないが、こちらが提供する品物の目安にはなる。
「それで、今度はなにが必要だ?」
「えっとね・・・」
彼女は袋とは別に肩から掛けていた鞄を探ると、以前提供したメモ帳を取り出した。
「荷造り紐七束に、ナイフが八本と、砥石二つ・・・」
ずらずらと並べられる物品の名前に、俺の眉間に皺が寄っていく。
「タオルが二枚、だね」
「それで全部だな?」
「必要なんだけど・・・」
「ちょっと、足りないなあ・・・」
彼女の持ち込んだ買い取り価格と、彼女の求める品物の金額を脳裏で照らしあわせながら、私は呻いた。
「そうなの・・・?」
「確かに君たちの品物は、わりといい値段を付けられるけど、今回は量が少ないからね・・・」
こちらも商売であるため、栞一枚に馬鹿げた値段は付けられない。
「ナイフと砥石と後いくつかをあきらめれば、どうにかなるけど・・・」
「だめ、全部必要なの・・・」
彼女はおどおどと目を左右に泳がせてから、私を見上げた。
「どうしよう・・・?」
「うーむ・・・」
私は腕を組んで呻いた。ツケにできないこともないが、借金はかわいそうだ。
「そうだ!」
彼女は何かを思いついたようにぱっと顔を輝かせると、踏み台を飛び降りた。
そして、私が質問する間もなく、彼女は足早にカウンターの裏側に回り込んだ。
そして、カウンター裏に立つ私の側に駆け寄ると、股間に手を伸ばそうとした。
「お、おい」
彼女の小さな肩に手を伸ばし、押さえながら声を上げた。
「なにをしようとしてる」
「え?お金が足りないときはこうしろって・・・」
どこか困ったように、ゴブリンは私を見上げた。
彼女にそう吹き込んだのは、おそらく年上の若干ませたゴブリンだろう。聞くところによると、町の青年の一部には彼女達とつきあっている者もいるらしい。
「・・・あいつ等か」
私の脳裏に、いたずらっぽい笑みを浮かべるゴブリン達の姿が浮かんだ。
「そういう話には耳を貸さなくていい。とりあえず、今日のところは品物は渡すから、おとなしく帰りなさい」
彼女の肩を軽くたたきながらそう言う。あまり付け入られては困るから、今回だけにしよう。
彼女を回れ右させ、カウンター裏からだそうとするが、彼女は振り向こうとしなかった。
「どうした?」
彼女に問いかけると、ゴブリンは低く口を開いた。
「その・・・・・・させて、ください・・・」
顔をうつむかせ、手を小さく震わせながら、彼女はそう答えた。
「いや、今回は特別に・・・」
「あたしが、したい・・・んです・・・」
小さいながらも、はっきりとした声音で、彼女は私の言葉を遮った。
その一言に、私は耳を疑った。
「はあ?」
「夜、一人でいると店主さんの顔ばっかり浮かんで、身体がむずむずして・・・」
ぐす、と鼻をすする音を挟んで、彼女は続けた。
「お願いです、させて・・・!」
彼女はそ
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