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魔王城を望む魔界の一角、荒れ地と渦巻く雲の間に、妙な物が転がっていた。
家ほどはあろうかと言う大きさの鉄の塊だ。だが、花が開くように内側から広がっている。
そして、その金属の塊を検分するかのように、十数人の魔女が群がっていた。
「骨を発見しました!」
魔女の一人が、瓦礫の中から声を上げた。
「よーし、じゃあこっちに持ってこい。慎重にな」
「はい」
瓦礫から少し離れた場所に立っていた、監督役の魔女の言葉に、彼女は白い物を抱えながら、ゆっくりと瓦礫を乗り越えた。
そして、監督役の足元に広げられた布の上に、見つけた骨片を並べた。
「これは…右上腕の骨かな…?かなり細いけど…」
運ばれた骨を区別しながら、監督役の魔女は呟いた。
「左上腕骨が二本に、大腿骨も二組、そして細い右上腕骨が一本」
これまでに見つかった骨片を検分しながら、彼女は脳裏で骨格を組み上げていった。
「成人男性が二人に、子供が一人か…教団もひどいことをしますねえ、皇女様?」
「え?ああ、そうね…」
監督役の呼びかけに、調査に立ち会っていたどこか上の空の様子で応えた。
「ふむ…」
監督役は妙な様子のリリムに、小さく声を漏らした。
魔王城に向けて突進しながら突然爆発した、巨大な金属馬車の調査にリリムが加わりたいと言い出した時は、現場を荒らされるのではないかと心配した。
しかし、現場にたどり着いても彼女は瓦礫を眺めるばかりで、手を出すことはなかった。
どことなくぼんやりした様子の彼女には悪いが、現場を引っ掻き回されるよりかはましだ。
「このまま大人しくしてくださるとありがたいなあ…」
リリムに聞こえぬ程度の声で囁くと同時に、瓦礫を探っていた魔女の一人が声を上げた。
「頭蓋骨見つけました!損傷のひどい物が二つです!」
「そうか、注意して持ってこい!」
監督役が支持すると、魔女は見つけて来た頭蓋骨を二人がかりでゆっくりと運びだした。
「頭蓋骨が見つかったのなら、スケルトン化させて情報を聞き出せますね」
「その必要はないわ。『戦車』に乗っていた聖騎士とは、私が直接話をしたもの。彼の安らかな眠りを妨げるのはかわいそうよ」
監督役の提案に対し、リリムはいくらか強い語調でそう指示した。
「骨を全て見つけたら、手厚く埋葬してやりなさい。犯行動機などの記録については、私が処理しておくから」
「はあ…そこまでおっしゃられるなら…」
リリムの言葉を、監督役は一応受け入れた。
納得のいかない部分はいくつかあるが、面倒な書類仕事を片付けてくれるのだ。ありがたく従うことにしよう。
程なくして、魔女二人が発見された頭蓋骨を監督役の側に運んだ。
「よし、そこに置け」
「はい」
布の上に並べられたのは、右半分が損壊した頭蓋骨と、左半分が損壊した頭蓋骨だった。
何かに叩きつけられたのか、損壊した眼窩の半ばまでが割れて失われている。
「これで少なくとも成人男性が二人だな」
男二人と子供一人で何をさせるつもりだったのだろう、と監督役は教団上層部の頭の中を心配した。
「全く、人間の考えることはさっぱり分からないな…あ、皇女様?」
誰にともなく呟く監督役の傍らをリリムが通り過ぎ、骨片の広げられた布に歩み寄った。
彼女は布のそばで屈みこむと、並べられた二つの頭蓋骨に手を伸ばした。
「ああ…皇女様?」
「監督、これらの骨は全てひとまとめにして埋葬しなさい」
「はあ?」
頭蓋骨を撫でながらのリリムの命令に、彼女は立場も忘れて頓狂な声を上げてしまった。
「本来ならば墓を分けるべきでしょうが、彼…いえ、彼らは一心同体だったのよ。一つにまとめて葬って上げるべきでしょう」
「まあ、そこまでおっしゃられるのなら、そのようにしますが…」
監督役は、教団上層部とともに魔王の娘の頭の中に対しても、幾ばくかの心配を抱いた。
「さて…」
リリムは立ち上がり、瓦礫に目を向けた。
幸い、聖騎士は彼女の火球と火薬への引火で止めることができたようだった。
あとは、主神の御許へとやらへ旅立った彼の安寧を祈るばかりだ。
だが、彼の冥福よりも懸念しなければならないことがあった。
『主神だけが、私を愛してくれました』
リリムの脳裏に、鉄仮面越しの声が響いた。
そう、彼は誰からも愛されていなかったと思っていたがゆえに、このような凶行に走ったのだ。
もし、彼が幼少のころから陰口を叩かれることなく過ごせたら、または彼の外見に驚きつつも、その驚きを掻き消すことができるだけの時間と相手がいれば。
「こんなことにはならなかったのかしらね…」
『戦車』の瓦礫を見つめるリリムの唇から、低く言葉が紡がれた。
だが、終わってしまったことはしょうがない。魔物も人も、これからのことを考えるしかないのだ。
そう、今まさに育ちつつある新たな鉄仮面の聖騎士を救うためにも。
彼女は顔を上げ
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