エルンデルストの村にて

突然の休暇というものは嬉しいが、一方で持て余すものだと思う。
無論娯楽などが揃っている場合は話は別だが、エルンデルストのように小さな村では、暇は持て余すほか無い。
『暇ねー』
両足を煙の塊と化した白い少女が、俺の側を浮遊しながら呟く。
「ああ、そうだな・・・って、まだ昼にもなってねえぞ」
一瞬マティに同意しかけた俺は、そう突っ込んだ。
普段ならば俺は近辺の山を登り、戦闘などの師匠であるリザードマンの女性の訓練を受けているのだ。
本来ならば今日も訓練の予定だったのだが、急に中止になってしまったのだ。
おかげで俺は暇を持て余し、こうして自分の小屋の中でぼんやりしているほか無いわけだ。
「・・・出かけるか」
『出かけるって、どこよ』
立ち上がった俺に、マティが問いかけた。
「とりあえず三賢人のところ。何か俺に出来る仕事が無いか聞いてくる」
『折角の休みだから、寝てればいいのに・・・』
「昼間から寝てられるほど、俺は神経太くないんだよ」
彼女に応えながら、小屋の戸を開けて表に出た。
薄暗い小屋に慣れていた眼が、屋外の日の光によって一瞬眩む。
俺は眼が慣れるのを待ってから、三賢人の住処へ向かって歩み出した。
『あの三人、いるかしら?』
小屋の壁を通り抜けて俺を追いながら、マティがそう問いかけた。
「いなかったら村の中を探すだけだ」
少し離れれば聞こえず、口の動きも見えない程度の声量で、俺は彼女に応える。
『でも、最近ちょくちょくどこかに出かけてるみたいだし』
「出かけてる?」
初めて聞く情報に、若干声が大きくなってしまった。
「どこへ?」
『さあ。ファレンゲーヘか、もっと先か・・・分からないけど』
最寄の大きな町の名を上げながら、彼女は答えた。
そんな会話を交わしながら俺たちは村の中央の広場を横切り、村の外れにある三賢人の小屋にたどり着いた。
そして小屋が見えてくると同時に、小屋の外で何かを書き連ねている四十代ほどの男の姿も認めていた。
「やあ」
「ん?アルベルトか」
小屋の中から持ち出したのであろう小さな机から顔を上げると、ヨーガンは手を止めて続けた。
「何の用だ。今日は訓練は休みだろう」
「いや、暇を持て余してね・・・何か俺に出来ることはないかと思って」
「家で寝ていてもいいというのに、変わった男だな君は」
ヨーガンの返答に、マティが『ほらぁ』と言わんばかりの笑顔を向ける。
「それで、何か俺に出来ることは無いのか?」
「ふん・・・そうだな・・・」
彼は顎に手をあて、しばし黙考した。
「水車小屋はズイチューの担当だし、窯もソクセンが見に行ってるし・・・特に無いな」
「無いのか・・・」
ヨーガンの応えに、俺は落胆した。
「まあ、何か思いついたら伝えるから、それまで日向ぼっこでもしているといい」
日当たりのいい小屋の壁を指し示しながら、彼は言った。
と、不意に俺の耳を小さな羽ばたきの音が打った。
とっさに顔を向けると、そこには青空を背に舞い降りてくる小さなハーピィの姿があった。
身軽そうな服装に、背中にはカバンを背負っている。
「ヨーガンさーん!」
ハーピィは高い声で俺の傍らに立つ男の名を呼ぶと、ゆっくりと地面に着地し、その前まで走っていった。
「ティリアさんからお手紙でーす!」
背負っていたカバンを開き、折りたたまれた紙を何枚も取り出す。
「ああ、ありがとう」
ヨーガンは礼を言いながら受け取ると、一枚一枚紙を広げながら、その内容を確認していった。
「マティおねーちゃんにアルさん、こんにちわ!」
『こんにちは、ツバサちゃん』
俺たちのほうに向かってきたハーピィの少女の挨拶に、マティが応じた。
『どこ行ってたの?』
「山のみんなのところ。ヨーガンさんへのお手紙はこんでたの」
ツバサは楽しくてしょうがない、といった様子で笑みを浮かべていた。
「ふん・・・・・・ツバサ」
手紙を一通り読み終えたのか、ヨーガンが顔を上げる。
「はい!」
「悪いが、夕方ぐらいにもう一度ティリアとアヤとシェーザのところに行ってくれないか?手紙があるはずだから、暗くなる前までに届けてくれればいい」
「分かりました!」
ぺこり、と頭を下げながら、彼女はヨーガンの頼みを聞き入れた。
そして彼女はマティのほうに向き直ると、おしゃべりを再開した。
「なんかあったのか?」
若干難しげな表情を浮かべるヨーガンに、俺は話し掛けた。
「なんでも、山伝いに盗賊団か何かが村に向かってきているらしい」
「盗賊団?」
彼の言葉に俺は驚いた。
「だったら早いうちに、村人を避難させるかどうにかしないと・・・」
「安心しろ。山の住人が迎撃する」
慌てた俺を遮るように、彼はひらひらと手にした紙切れを振って見せた。
俺の脳裏に、アヤさんとセーナさんの顔が浮かぶ。
確かにセーナさんは強いだろうが、アヤさん
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