どの町にもあるような、酒場付きの宿屋。
その一角に置かれたテーブルの一つを、大勢の人間が囲んでいた。
テーブルに着いているのは二人で、その上には山のように詰まれた銀貨とカードがあった。
「・・・二枚チェンジ」
三十過ぎほどの男が、悩んだ末に手元のカードを二枚捨てながらそう言った。
「・・・一枚チェンジ」
男の向かいに座る俺は、一応の期待をかけて手札を一枚交換する。
そして新たに引いたカードを確認しながら、俺は視線を上げた。
見るのは俺の手元を注視している男ではなく、その後ろに立つ少女。
年は俺と同じぐらいだろうが、彼女は衣服や肌どころか髪まで真っ白だ。
彼女は男の肩越しに彼の手札を確認していたが、俺の視線に気がついていたのか顔を上げた。
「上乗せだ」
男が自身ありげな笑みを浮かべながら、手元の詰まれた銀貨をテーブルの中央に押しやる。
銀貨の枚数を確認すると、視線を男の後ろに立つ少女に向けた。
『つ、う、ぺ、あ』
彼女の口がやや大袈裟に動くが、誰もとがめない。
俺は手札を確認すると、手元から同じだけの銀貨を押し出した。
「受けるぜ」
「よし・・・俺はツーペアだ!」
男が手札をテーブルに叩きつけながら、声を上げた。
「悪いね、フルハウス」
「何!?」
俺の役に男が立ち上がり、テーブルを囲むギャラリーから喝采が上がる。
「いいぞ、ガキィ!」
「そのままケツ毛まで毟っちまいな!」
「うるせえ!外野は黙ってろ!」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら、彼は観客に向けて怒鳴った。
銀貨二枚で勝負を挑んできた俺に、もちが根の半分を巻き上げられたのだ。
無理も無い。
「まあまあ、夜は長いからさ、他の連中からゆっくり取り返しなよ」
勝ち取った銀貨を手元に引き寄せながら、俺は男に向けて言った。
「てめえ、勝ってるからって調子に乗るなよ・・・」
「別に乗ってないよ」
ややイラついているような彼に向け、俺は薄く笑みを浮かべながら続けた。
「なんなら・・・レートを上げようか?」
「なに?」
「これからツキが回ってくるってんなら、その方が俺から簡単に取り返せるだろ?」
「・・・このガキ・・・後で泣いても知らねえぞ・・・」
俺は薄く笑みを浮かべながら、刺すような男の視線を受け止めていた。
そしてその背後で、白い少女が小さく笑っていた。
「ストレート」
「わ・・・ワン・・・ペア・・・・・・」
俺の手札と絞り出すような声を確認すると、男はにやりと笑みを浮かべた。
「悪いな、ありがたく取り返させてもらったよ」
テーブルの中央に積み上げられていた、起死回生の一発逆転を狙って賭けた俺の最後の銀貨が、男のほうへと手繰り寄せられていく。
「で、どうする?なんなら俺がいくらか貸してやってもいいが?」
「いや、やめとく・・・」
俺はどうにかそう応じると、席を立ちギャラリーの間をよろよろと通り抜けていった。
「おい、坊主!いつでも取り返しに来いよ!夜は長いからな!」
気分のよさそうな男の声が俺の背中に投げかけられ、笑い声が後に続いた。
だが、俺は応えることなく足を引きずるように酒場を離れ、二階の予め取っておいた自分の部屋へと戻っていった。
ドアを閉めると、酒場の喧騒がいくらか遠ざかり夜の闇が部屋を包み込んだ。
「・・・・・・よし」
窓から差し込む月明かりを頼りにベッドまで歩み寄ると、俺は腰を下ろした。
そして左右の袖口から、俺は今日の稼ぎを取り出した。
「ええと、二の四の六の・・・」
男との勝負に勝ち、銀貨を引き寄せるたびに袖口に隠していたおかげで、元手は数倍に膨れ上がっていた。
これなら次の町までの路銀にはなるだろう。
ある程度重くなった財布に、自然と笑みがこぼれる。
「ま、こんなもんかな・・・」
『なーにがこんなもんよ』
財布の重さを堪能する俺の隣から、不意に澄んだ声が届いた。
目を向けると、俺の隣には酒場で男の背後に立っていた白い少女が腰掛けていた。
『いっそのこと身包みはがしちまえば良かったのよ、アル』
「何言ってんだ、マティ。んなことしたら目をつけられるだろう」
白い少女、マティの言葉に俺はやれやれ、と頭を振った。
ほどほどに勝っていたのに、欲を掻いて儲けを全部失ってしまって、とぼとぼ部屋に帰る馬鹿一名。
そんな奴から金を巻き上げようとする奴がどこにいるだろうか?
「いいか、欲ばっていいことなんざ一つもないんだ。必要なのは今日を生きる糧と寝るためのスペース。これだけの稼ぎがありゃ十分だ」
『私にイカサマ博打の片棒担がせて、良くそんなこといえるわね』
呆れた、といった様子で彼女はそう応じる。
「そりゃ仕方ないだろ。この町じゃ仕事は無いし・・・」
本職で稼ぐために立ち寄ったはずだったのだが、仕事が無ければ稼ぐ方法は無いのだ。
『だったらなおのこと次の町へ急ぐ
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