ぱ。
れろ。
じゅぼ。
ちゅるる。
何という事だ。
何という事なんだ。
何という事なんだろう。
どうしてこうなってしまったのだろう。
夢のように波打つ感覚の中に圧迫され、飛び起きる。
これで幾度意識を取り戻し、そして手放したのだろうか。
耳から聞こえてくるのは、何時間経てども変わらない少女の悦びだ。
私を犠牲にした少女の栄養摂取は一晩を越えて、結局翌昼にまで及んでいる。
「... ... ...」
声まで搾り取られるだなんて、想像した事が無かった。
感動すら覚える幻惑。
悪夢にも見える錯覚。
拷問に違いない快楽。
涙も汗も、口の中もとうに乾いていた。
荒ぶ呼吸に肺が疲れきり、異常な鼓動に心臓は暴れている。
乾き物と相違ない私に対して、ビーフジャーキーさながらに吸い付いてくる。
上気して、一心不乱に舐められている。
最早他人事のように、私は少女を感じていた。
「…はあっ、…はぁっ」
気持ちが悪いほどに気持ちよい。
そんな混濁した害悪な快楽の海から、やっと解放された。
「…あーおいしかった。ごちそうさま」
喉を潤したばかりの声だと錯覚するほど、少女の声は晴れやかで爽やかだった。
私はぎしぎしと痛む目玉を動かして少女を見る。
年幾つと、姿を見て考えるならば私自身の倫理観を全否定してしまう事態に陥っている。
少女はあくまで官能的で、あどけなく、垢抜け切れていないような雰囲気であった。
「…どうしたの」
「...、...」
「…へばっちゃって
…お口ぱくぱくしちゃって
…まるでお魚さんみたい
…あ、そっか。
…声が出ないんだね
…声を出す力もないのかあ
…体中が軋んで痛いんでしょう?
…あなた、あまり体力のない人だから
…その割にはよく耐えたね
…褒めてあげる
…嬉しい?
…悔しい?
…わたしをずっと独りにさせてた罰だよ
…判るでしょう?
…ざまあみやがれってのさあ えへへ…」
少女は相変わらず、口を使い続ける。
よくもまあ疲れないものだと関心こそすれ、しかし私には無気力しか湧いてこない。
返事なんてもってのほかである。
口の達者な都市伝説。
そういえば、そんな存在がいた気がする。
「...、」
喉の感覚が戻ってきた。
咥えられている間はずっと枯渇していたのだが、行為が終わると元に戻るようだ。
「...やめてくれ」
渾身であったし渾心の叫びだったが、やはり掠れた小さな声にしかならなかった。
それでも充分、少女の耳には届いたらしい。
少女は私の次の句を待つために、ただ黙ったらしい。
「...申し訳ないが、怖いよ、お前」
声に出した途端、不満が湧き上がってきた。
「あんなんねえよ。ひでえじゃ片付かん。
死ぬ。死んじまう。
ヤるってレベルじゃねーぞ。
何で死ななかったのか不思議だわ。
俺自分で自分の事褒めてやりたいわ。
迷惑の具現化か。邪魔っていう悪魔なのか」
邪魔。
私にとって、少女はそういう存在なのかもしれない。
現に少女は幻であったし、それで結局違和感なく過ごしてしまっている。
しかし姿を現してもらっての行きついた先はどうだ。
こんな拷問と等しい答えで納得ができたものか。
幻のままの方が、ずっと夢を見ていられた。
「お前はいったい、何者なんだ」
遠くから、早朝走る車の音が響いてくる。
「…何者だったらいい?」
とても静かで寂しそうな少女の声が届く。
表情はあまりに暗いまま、その姿は朝に僅か残った影の中に溶け込んでいった。
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