かつてアレキサナシアという肥沃の精がいたという。
彼女は森に棲み、人々に技術と論理を伝えた。
それらの対価には大地の恵みが求められた。
ある晩、精霊は夢見をもって一人の男を呼び寄せた。
彼は森を守る戦士の一人であり、精霊と契りを交わすことで森の覇者となった。
「これ、結構残酷な話よね」
「しかも実話の可能性があるんじゃよ」
「それは…判ってるんだけど」
覇者は森に大きな居を構えた。周囲の人間は彼を慕った。
元来この男は森と会話ができるものとして神聖視され、実際に男は動物や植物たちとの対話が可能であった。
聖堂の中で交わされていた契りも、神事の一つとして認められた。
年にニ度のその行事は、回を重ねるごとに長い周期のものへとなっていた。
次第に人々はその行事を軽視するようになり、王の居ない間に権力を振リ翳すものが出てきた。
しかし覇者は精霊の力を借りる事でその王座に相応しい対応をとって牽制し、民の先導者となった。
そうやって長いときが過ぎていくと、徐々に王は聖堂に篭るようになってしまった。
遂に、王は年に二度しか現れないと言われるようになった頃、森は魔物で埋め尽くされていた。
しかし男は有能であった。魔物と人間の境界を設け、王の力の前に魔物もこれに従ったのだ。
「…」
「ほれ、続きを読まんか」
食物が穢れ、とうとう以前と同じ糧を得ることが限界に達したとき、聖堂は焼かれた。
「…これ、好きじゃないんだよなあ」
民の怒りは周囲の魔物にも伝わり、その感情を舐めとろうと境界線は崩されるようになった。
変質した植物を一度でも口にしたものは厳しく処断された。
しかし、動物も魔のものへと姿を変えていったとき、民は自決を始めた。
まずは老人を殺した。その少ない肉を食べて生き凌いだ。
その軽い骨は鋭く研ぎ磨かれ、魔物を退治するための特別な武器となった。
次に大人の女を殺した。その柔かい肉は老人のものよりも人気があり、すぐに大人の女は消えた。
その長い髪は武器にも罠にも道具にもなり、自然と民は髪を綺麗に扱うようになった。
少年を殺してその肉を食べた頃、民は呪術に没頭した。
呪術への傾倒ぶりは凄まじく、魔術的意味を見出せない武器は全て取り払われた。
民にとって、呪術は魔物を圧倒する唯一の武器となった。
少女は巫女として、その全員が重宝され、男は少女たちに今昔の森における全ての智恵を授けた。
「…もういい?」
「じゃあおとなしく落第することじゃな」
「…」
魔物との緊迫した関係が続く最中に、元覇者の影を見たものが居た。
調査の結果、覇者は穢れきった精霊と共に魔物として生存していたことが判った。
覇者とその伴侶は、魔物らに力と智恵を与えた上で支配していた。
民は占いの結果で得た“変革の宵”を機に、魔物らを討つと決定した。
その雰囲気は魔の域にも達し、両者はその日の日没と同時に争いを始めた。
森に闇の帳がおりきった頃には民がまだ優勢であった。
しかし、新月が魔物に力を与え、魔物が形を変えたとき。
男たちの人間としての全てが同時に死んだ。
呪術的武装をしていた少女たちは、新たな魔王の気に当てられてその姿のまま魔物になった。
「…はい!わたしがんばった!アタクシは超がんばりました!!」
「そうかそうか頑張ったか。まあちゃんと訳せているとして、あとふたつだけ課題を与えて許そうか。」
「えー」
「何じゃ単位が要らんのか」
「欲しいです欲しいですそりゃもうメタクソに!」
「言葉遣いが…まあそれはいい。とにかく、この話のそれからを考えろ」
「やっぱりそうきたか!」
「さっさとしろ」
「うーん。変革の宵は、やっぱり魔王交代の夜のこと。だから男はインキュバスになったんだろう。ってことは、生き残った女もサキュバスになったのかなぁ。でも、魔法使いとか、かもなぁ」
「それでいいとするかの。実は、最もこ有力な説がこれにはあるんじゃよ」
「はぁ?なんですか」
「アマゾネスじゃよ」
「…なるほど。それはとにかく、一つ質問したい事があるんですが」
「何じゃ急に。言ってみい」
「そもそも、こういった文書は誰が書き記しているんだろう?なんとなくこれはアマゾネスが書いてる感じがするけど、他の精霊文書は生き残りもいなさそうなのがあるよね」
「それを考えて答えを出すのも学者の仕事じゃよ。まあそれは材料さえそろっていれば時間操作なり何なりで記録できるものなんじゃよ。ただ、その材料というものが大変な価値を持つものばかりであってな、揃えるのが困難極まりないんじゃ」
「へー。とにかくめんどいのね」
「そうじゃ。例えば特殊な地層から石版をつくったりするんじゃな」
「その地層ももしかして」
「そう。魔王変革の頃の地層じゃな。何分まだ浅い場所にあるから凄く貴重…もう手が出
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