「……あ……」
彼女の口から初めて、呻きとは違う声が上がる。
飢餓状態から回復し、自我の光を取り戻した彼女の目に映ったのは……
足を投げ出し、腕も首も力なく垂れ下がった状態で座り込む幼い少年だった。
粘液で汚れたまま、まるで壊れた人形のようにピクリとも動かない。
「え……?」
彼女は自分の置かれた状況が理解できなかった。
目の前の少年はどこの子?
ひどい見た目だけど大丈夫だろうか?
助けを呼ぼうにもここはどこ?
私はなぜここに?
一瞬のうちに様々な疑問が浮かんでくる。
「っ!……わたし!?……」
幸か不幸か、魔力が回復したためか空回りしていた思考に記憶が追いついた。
<今、自分が何をしたのか>が思い出され、
その途端、自分が少年を襲ったという事実に全身が総毛だった。
(なんで!!?……私は……あれ?)
たしか、いつも通りに(人間として)大学にいって、お昼は友人と恋バナをしていて……そんな日常的なことは思い出せる。
なのに、
(大学の講義が終わって、それから……だめだ、やっぱり分からない)
<自分がなぜこんなところでこんな事をしているのか>
その記憶がすっぽりと抜け落ちている。
おぼろげに感じるのは突然、猛烈な[渇き]に襲われたことだ。
自身の記憶を辿る半ばで彼女はハッと顔を上げ、少年に目を向けた。
なにを自分は悠長に考え込んでいるのか。
あんなに小さな体に、あんなひどいことをされて無事なはずがない。
今は自分のことよりも、早くこの子を助けないと。
「ご……ごめんなさい!」
聞こえてはいないだろうが謝らずにはいられなかった。
急いで少年に近づく……が。
ガクッ
「っえ!?」
前に進もうとした体が急激に後ろに引っ張られる。
彼女の行動を阻んだのは彼女と意思を共有しているはずの触手だった。
子どもの頃に魔物化した彼女はすでにローパーとして生きて久しい。触手を宿して間もないならまだしも、本来は完璧に一体化した女性を無視して触手が行動することはないはずだ。
「ちょっと!何してるの!?」
彼女は触手の根元を掴むが、当の触手は壁や地面に吸い付いて頑なに抵抗している。
「早くシないとアノ子ガ……うっ!」
突然、少年を助けようとしていた彼女の意識がドロリと濁った。ほんの一瞬だが自分の内に垣間見えたものを、今度はハッキリと自覚することができた。
性的欲求。
しかし、その欲望の暗さと重さに彼女は愕然とする。
(まさか私、まだあの子に何かするつもりなの……?)
愛しの人にはまだ出会えていないが、魔物である彼女はこれまでも男性に欲情することはあった。
しかし今、自分の内から湧き上がってくる感覚は、普段感じるものとはあまりに異質だ。
触手たちはそれをいち早く感じ取っていたのだろう。
彼女の本意ではない欲、それに従い、このまま少年に近づけば結果は凄惨なものになる。
それ故に、彼女を少年に近づけまいとしている。
「なんで、こんなのおかしい……」
まるで自分のものじゃない何かが、自分の中にいるような感覚。
自分の肩を抱くようにして俯き、今度は少年から遠ざかるように後ずさった。
バタッ
そのとき、乾いた地面に水滴が落ちた。
雨ではない。
「なに……これ……」
それは彼女の顔から滴る汗だった。
パタパタパタッ
顔だけではない。全身から汗が吹き出し、にも関わらず体が異様に火照っていく。
唾液が口内にあふれ、目が潤み、
せめてもの抵抗だろうか、彼女の意思できつく閉じられた股間からさえ粘度を持った液体が湧き出し、太ももを伝い落ちていく。
「いや……いやぁ……アアアァ!!」
俯いたまま拒絶の言葉を呟いていた彼女は突如、頭上を振り仰いだ。
艶めかしい嬌声と同時に愛液が噴き出し、彼女の液状の服がさざ波のように揺れる。様々な液体が水音を響かせながら地面に落ち、瞬く間に水たまりを作りあげた。
こぼれそうなほどに目を見開き、限界まで喉をそらして彼女は震えていた。
その振動が全身と触手の先端まで達し……ぴたりと止まった。
彼女と、周囲に張り付いていた触手が脱力し、彼女の近くへ戻ってくる。
ゆっくりと、正面に向き直った彼女は
「アア」
欲望に蕩けた表情で、声ともつかない呻きを漏らした。
バチャ、ビチャ
自らの体液で作り上げた水たまりを乱しながら、彼女は再び座り込んだままの史郎に近づいていく。
触手は歩みを阻むこともなく、彼女の周囲を静かに漂っている。
少年の前に立ち、上から見下ろす彼女の口元が三日月のように歪んだ。
ただ、その歪みからは
「イ……ヤ……ダ……」
消え入るような拒絶の言葉が漏れていた。
目元も口と同じく笑みを形作っているものの、溢れだした涙が通り過ぎては地面に落ちていく。
精に対する飢えの生み出した淫らな表情の奥には、彼女の悲しみが浮き沈みしている。見れば触手
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