真っ暗な画面に
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「魔物との戦闘及び対抗処置実施、それに伴う魔力供給量安定確保等における研究課題」
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と題された黄緑色の電子文字が浮かび上がり、それに続いて所狭しと数字とアルファベットを振られた項目が表示されていく。
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「男性のインキュバス化による身体機能向上の原理解析と利用法の分析」
「神の加護を伴わない人工的能力上昇の発現及び、発現状態維持の探索」
「男性人体の精力増産と体外魔力発生術式、発生器具、量産方法の開発」
「魔力浸透防止結界による使用者のインキュバス化防護処置術式の実験」
「非インキュバス化の維持と並行可能な魔力戦闘術式の発動方法の実現」
「各項目の開発と実用化に向けての魔力供給源の確保と増産体制の確立」
etc
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やがて画面を埋め尽くしたそれらはおそらく、男が検討していた研究課題の羅列。
数秒後に文字が消え、再び黒い画面に新たな文字列が表示され始める。
今度の内容は、研究に対しての考察の記述。
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魔物という存在に対抗するため、薬物や魔法、訓練など、あらゆる手段を用いての肉体の強化、精神の安定を試みてきた。
それらが一定の効果を示して定着すると、実験内容、研究の段階は「魔法施術」へと移行していった。
生物としての枠を越えて魔物に近づき、尚且つ、人間としての肉体を失わないための実験。
魔物と戦う<教団>に所属している以上、魔物を上回る戦闘能力を持つ<人間>であることは必然となる。
現時点ではその代表となるのが、神の加護に護られた勇者と呼ばれる存在だ。
しかし、神の加護は誰しもにあるものではなく、また、勇者となってからも尋常ならざる鍛錬を求められるため、結果、人類は圧倒的な戦力不足に常に悩まされている。
そこで魔物との戦闘で優位を保つ人間を人工的に創り出す研究を始めた。
これらの研究が確立できれば、神の加護を得た勇者という、限られた存在に依存することなく、安定的に強力な戦力を生み出すことができる。
同時に、大規模な魔法を単独で発動できる魔術師の確保や、兵士の魔法武器の強化、増産、補充に必要となる、膨大な魔法エネルギー(その源となる精)を生み出し供給できる魔法力増産機の如き人間を創り出すことも可能となるだろう。
精力を多量に保有する人間の運用は補給のみならず、魔物を作戦領域まで誘引する囮として配置するなど、戦略の幅を広げるためにも役立つはずだ。
ただ、この研究は秘密裏に行う必要がある。
人工的な勇者の創出、家畜の如き精力増産用の人間の創出は、教団の信仰に限らず、一般的な倫理観でも批判され、否定される可能性が高い。
また、膨大な研究データを得るためには多様な人間を被検体にしての実験が必要であり、その実験の多くは望む結果に終わることなく<終了>することは避けられない。
だが、偉大な発見に犠牲は付き物だ。
秘密裏に、非合法な手段で、一般的な倫理に反する行為だとしても、今回の研究の成功は、人類対魔物の戦力比を大きく傾けるだけの将来性を秘めており、世界の理想を実現に導くものであると確信している。
etc
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長い。
気が遠くなるような長文が、常人には読み飛ばしているようにしか思えない速度で画面上を流れては消えていく。
それを羽倉は瞬時に読み、理解していった。
知に特化したリッチならではの芸当といえよう。
読み進める中、
綴られる内容は次第に研究に対する苦悩へと変わり始める。
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これまで実験に用いた被験体は一般人の男性にはじまり、高位の力を宿した騎士、魔術師など多様だ。
教団に所属していて情報が得やすいにしても、彼らを非合法、秘密裏に捕獲することは骨が折れた。
だが、そのように苦心して集めた被検体へ施した実験内容のいずれもが完成することなく、成果とも呼べないような結末を迎えていた。
身体機能や精神機能が一般的な人間の基準を著しく上回っている人種を潤沢に用いたにも関わらず、これらの実験は開始直後こそ、ある程度の効果を発揮するものの、すぐにその優位性を失ってしまった。
具体的に記せば、
インキュバス化を防ぐために魔力を<纏う>形での戦闘術式の発動に成功しても、魔力の源となる精力が急速に枯渇してしまい術式を維持できず、結果、戦闘術式を発動直後に魔物化を防止するための術式が崩壊し、実験体がインキュバス化してしまうのだ。教団に従事するべき、あくまでも人間の兵士を創出することを目的とする以上、この時点で実験は失敗である。
あるいは、精を元として体外に発生させた魔力を防ぐ術式を維持できたとしても、その魔力を戦闘に利用するだけの余力がなく棒立ちになっ
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