#160;
#160;病室に入った俺が見たのは、肩を震わせてエロゲのパッケージを掴んでいるフィネアの姿だった。
「ーーご、しゅ、じ、ん、さ、ま?」
#160;
#160;いやいやコレはデスね? 恋愛における教科書を読んでいたんですよ。何せ俺は恋愛童貞。決して浮気とか邪な気持ちを抱いてた訳じゃなくてデスね? アレですよ。恋愛小説を読むような、そんな感じデス。
「何ですか一体! 『我慢出来ません女神様っ! 8 -悪魔催眠陵辱編-』って!」
#160;
#160;あ、デスった。よりによって見つかったのその作品か。
#160;
#160;いやぁ、何ていうか。趣味?
#160;
#160;メインタイトルのおねショタっぽさは釣りで、毎シリーズハードで鬼畜なエロを提供してくれる俺にとってのキラータイトルでさぁ。このブランドあんまり大手じゃないんだけど描写が容赦なかったりする所が好ましいんだよねー。
#160;
#160;……うん、そうじゃないよね。何でこれを俺が持ってるのか、って話だよね。
「ーー何で!」
#160;
#160;いかん。寮に置いといたら誰かに見られるかもしれん、と思って持ってきてたのが仇となったか。
#160;
#160;……だが、言い訳をして逃げる訳にはいかない。エロゲを愛し、嗜む者として、自分を偽る事は許せないのだ……!
#160;
#160;俺本体が馬鹿にされるのはいい。慣れてるし自分でもやってる。だが、エロゲを、俺が愛する作品を自ら否定する事だけは、絶対に出来ない……!
「何で、メインタイトルに『女神様』と書かれてるのに陵辱するのは悪魔なんですか!? 誤字! 誤字ですこれは! 何故ご主人様はお気になられないのですか!?」
#160;
#160;指でタイトル部分を叩き、顔を真っ赤にしながら小さく荒ぶり始めた。
#160;
#160;……うぉーい、それでいいのか俺のメイドさん。あとそれ、メインタイトルは5部作辺りであんまり関係なくなってるから。『美しい女性=女神様』って解釈らしいから。
「え? それでって、それ以外にありますか?」
#160;
#160;いやさ、普通こういうのって彼女としては嫌じゃない? ただの絵に浮気されてるようで納得いかない、って聞いた事あるんだけど。
「そんな事はありません。創作物のキャラクターに特別な感情を抱くのは誰にでもあります。でなければ『名作』や『人気キャラクター』などと言ったものは生まれません。このような作品に触れ性的欲求を募らせるご主人様は一際感受性がお強く、キャラクターへの感情移入が人一倍な方と見受けられます。ーーそのような方を変と言うのは、それこそ変と言えるでしょう」
#160;
#160;うぉ。すげぇこの子。
#160;
#160;同類が言うような異常者同士(わかってるにんげんどうし)の相互理解ではなく、一般論を含めて正当化してくれたよ。
#160;
#160;いやでもでも。この趣味って人間社会だとかなり特殊っていうか、奇異の目で見られやすいんだけどさ。俺がこういうのやる人間って隠してた事に関して怒ったり幻滅したりしないの?
#160;
#160;……え、何でそこでため息付くんですか。
「ーーご主人様? 主人の状態把握に関して、キキーモラの右に出るものはまず居ないんですよ? どんなにお隠しになられても、ご主人様の趣向に気付いていない訳がありません」
#160;
#160;キキーモラすげぇ。エロ本を何処に隠しても掃除の時に見つけて生暖かい視線を送ってくる世の中の母親より目ざといというか。
「ーー私は、そのような所も含めて、あなた様の事を敬愛しておりますから」
#160;
#160;……参った。こりゃ完全論破されたわ。やっぱフィネアには諭されてばっかりだ。
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#160;よし。今度一緒にこのエロゲを、
「そ、それは遠慮させていただきます」
#160;
#160;ですよねー。
「い、いえ。そういう意味での遠慮ではなくてですね。ただ、その……見てると、ーー我慢が」
#160;
#160;あ、そっち? これ陵辱系だけど、そういうプレイだと脳内変換して妄想しちゃうの?
#160;
#160;ではエロゲではなくアニメを見ようじゃないか。丁度俺のスマホには『量産型を使い捨てるどうやっても死なない主人公が泥沼の戦争の中で一人の女の為に戦うむせるロボットアニメ』が全話 OVAも全部突っ込んであるから、これから一緒に、
「ーーご主人様」
#160;
#160;言おうとして、制止の声が掛かった。
#160;
#160;……うん。いつまでもふざけてられないよね。
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