「――メイド喫茶? この街にか?」
「そうそう。班長が帰り際に見たって言っててさ。こんな寂れた街にそんなの来るなんて、不思議な事もあるモンだよなぁ」
消灯時間の30分前。一日の課業を終え、さあこれから寝ようという所で同室の班員達がそんな話を始めた。流石去年まで高校の部活でしごかれていた若者達だ。日中あれだけ仕事をしていてまだ雑談をする体力があるとは。元理系の、それも年食いのモヤシはもう眠いんです。
「で、配ってたチラシがコレなんだけどさ」
「ちょ、何であるんだよ」
「班長から借りたんだよ。――ほら、レベル高くね?」
「どれどれ……、うぉ! この子可愛いな! ほら、こっちのセミロングの!」
「はぁ? どう見てもこっちのポニテの子の方が美人だから」
何かよく分からんが議論が始まった。他の班員も釣られて話に加わり、一時的に部屋がやかましくなる。チラシに貼られてる女の写真がそんなにネタになるとは。そんなに現実の女がいいのかお前等。
いいか、考えても見ろ。女なんて歩く災害じゃないか。
こっちが理論的に話を進めようとすると自分勝手な感情的思考を持ちだしてさも人間の正論のように語りだすし、下手な所突っ込むと泣き喚いて仲間を呼ぶし、周りを固めてこちらを排除しようとする。自称フェミニストのクソ男共も巻き込んで女である事を最大限利用して数の暴力を仕掛けてくるとか、これほど迷惑な存在は居ない。現に痴漢と叫ぶだけで軽々と男の人生壊せるんだしな。
加えてメイド喫茶に居るような女の中身なんぞ、恥を捨てて金を稼ごうなんて考えてる連中に違いない。金の為にやりたくない事をやる、という姿勢は評価するべきとは思うが、正直見るに耐えない。ぞわぞわする。
その点、二次元の女の子は実に良い。実にグレート。劣化しないし、可愛いし、こっちの人生を害する事など決してないのだから、嫁にするならこれ以上の存在はない。先日プレイしたエロゲにだって、
「よっしゃ! 今週の土日班の全員で行こうぜ!」
「いいな! 賛成!」
「べ、別に行きたい訳じゃねぇんだけどな。全員ってなら仕方ねぇ、付き合うぜ」
あれ? 何か話が面倒臭い方向に向かってねぇかなコレ。
寝たフリして聞いてませんでしたアピールするべきかどうするか迷ってると、
「ほら『お前』、こういうメイドとか、好きだろ? 行くよな? よっしゃ決定ー!」
おいコラ人の返答フェイズを全部スキップするんじゃない。行くともメイド好きとも一言も言ってない内から人の休日の予定を勝手に入れるな脳筋。
「おかえりなさいませご主人様、とかって言ってくれるんだろ? ちょっと萌え、とか分かんねぇけど、この子がそう言って出迎えてくれるんだったら、俺ならそのまま押し倒すね」
「何言ってんだよキメェ。そういうのは同意の上でだろ」
俺に聞くな知らん。しかも押し倒すとか、そこ多分ソープでも何でもねぇから。
「じゃ全員の同意出た所で! 明日も頑張ろうぜ!」
「あぁ〜……。さっさと休日来ねぇかなー」
各々自分のベッドに寝転び始める。中にはもう寝息立ててる奴とか居るんだが。
あ、コレ完全に断るタイミング逃した。
・・・
長く苦しい一週間を抜けた俺を待っていたのは、また地獄だった。
「ここだな。あからさまにそういう看板立ってるし」
「……正直、入りにくくね? 冷静になってみるとガチ過ぎて引くんだけど」
明らかに『そういう店』という雰囲気の建物の前で数名の若者がざわついている。
看板には『ロミ・ケーキ』というゴシック体で書かれており、これが店名なのだと分かりやすく伝えてくれる。
思うんだが、入りにくいなら入らなきゃいいんじゃねぇかな。もう帰ろうぜ。
「何やってんだよ。ここまで来たんだから、入ってみようぜ」
「まあ、後々笑い話にも出来るし、いいか」
もうちょっと迷えよ若人達。
来店を知らせるベルの音が鳴り、喫茶店特有の空気が肌に触れた直後、
「「「――お帰りなさいませ、ご主人様」」」
数名のメイド服に身を包んだ女性達が、画面の中でしか聞いた事のない台詞と共に恭しく御辞儀をしていた。
店内は思っていたより落ち着いた雰囲気で、過剰な装飾は何処にも見受けられず、一昔前の喫茶店という感じだった。
それに加え、出迎えてきたメイド達も、よくCMとかで見るようなフリフリのエプロンに短いスカート、パンプスではなく、とても暑そうなワンピースに純白のエプロン、しっかりとした革製ブーツという出で立ちだ。見た感じ、立ち振舞いも優雅で媚びるような動作がなく、本当に従者として一歩引いたような姿勢を取っている。
さらにさらに畏まっている女性達も、美醜を問うたら誰もが美しい、または可愛いと言うだろう。多分。現実を見ない俺にはその辺の
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