馬を駆って街を出てから、アタシ、アニー・ランピネンは、隣を併走するシャーランと呼ばれていた少女に話しかけた。
「それで、どうするつもりなの!? ていうか勢いで出てきちゃったけど、実戦経験も無い新人よねアンタ!」
相手は一人ではなく、複数なのだ。そこに、ついこの間まで一般人だったこの子を放り込む事は、猛獣の前で、生肉で出来た服着て踊る事と同じだろう。
「実戦経験はそこそこ! 一応対抗策もあるよ!」
「は? え、ちょっと待って。アンタ、補充兵よね? 元一般人よね?」
「住んでた所の近くによく魔物が出てたモンで、よく追い払ってたよ! 心配しないで!」
その言葉からは見得も嘘も感じられず、この子が言っている事が本当だという事を表している。しかし、にわかには信じがたい。
軽鎧を装備し、手甲を嵌めてはいるが、その身体は服越しでは少女のものにしか見えない。実は脱いだら凄い、というのならまだしも、だ。
そもそもこの子は、防具以外は何も装備していない。剣も槍も、斧も弓も何も持っていないのだ。
「武器も持たずにどうやって戦うってのよ!」
「決まってるじゃない。コレよ」
そう言って少女は、自分の拳を振り上げた。
「……何も握ってないけど、魔法?」
「いやいや、武器はコレだって」
今度は握り拳をブンブン振り回している。それはつまり、
「――アンタまさか、……徒手空拳?」
「そ」
「はぁ!? 魔物って私達人間の何倍も筋力があるのよ!? そんなのどうやって――」
「そんな事より、相手は集団なんでしょ!? 何か、こう、範囲攻撃的なものは持ってないの!? 火薬玉とかさ!」
急に話を逸らされ、納得いかない気分になるが、状況はシャーランの言う通りである。
そして、この子が言う物も持ってはいる。
「一応、あるにはあるわ。けど、皆が戦っている最中に投げ込めば、敵味方もろとも吹っ飛ばす事になりかねないから使えないのよ!」
「だったら、皆に被害が出ないようにすりゃいいのね!?」
だが、それは容易ではない。
上手く発火のタイミングを調整して、地面に落ちる前に爆発させられれば仲間に伏せてもらうだけで十分不意は突ける。しかし、その為には魔物の群れを超えて声を届かせなければならないのだ。
「――よし、見えた! アレでしょ!?」
「え、ええ! でも――」
「私が魔物達の気を引くから、アネーは着いて来て!」
「アネーって何、ってちょっと、アンタ何を――」
するつもり、と言うよりも先に、少女は馬に鞭を入れ、速度を上げた。
「ジャンプ台は、――そこ! 行っけーっ!」
そのまま小高い丘目掛けて、少女を乗せた馬は風になったように走り、そして、飛んだ。馬は魔物の群れを易々と飛び越し、放物線を描きながら大きく跳躍したのだ。
「ちょっと蹴るけど、ゴメンね!?」
ヒヒン、とまるで了承の言葉を返すような馬の返事を聞いた後、シャーランは手綱を離し、馬鞍の上に立ち、身体を反転させ、馬の尻を蹴った。
「なっ!?」
「おおぉぉぉりゃぁぁああぁぁっ!」
少女はそのまま流れ星となり、魔物の群れの中心に飛び込んでいった。
「ええい! 考えてる暇はないか!」
火薬玉の導火線を短く千切り、同時に火を点ける。新人の意味の分からない行動に続くようにアタシも丘を使って飛び、
「皆、伏せなさい!」
そう叫んで、思い切り投擲した。
炸裂した。
・・・
いくら素の人間で太刀打ちできない存在であろうと、中身を揺らされる事には耐えられないようだ。火薬玉により引き起こされた衝撃は脳や三半規管、内臓を震わせ、直接的なダメージは無いにしろ動きを止めるには十分だったのだ。
「う、うーん……」
「き、気持ち悪……」
「……ぐにゃー」
魔物の群れを飛び越えた先で馬から降り、すぐさま降りて振り返ると、大半の魔物は地に伏せ、呻き声を上げていたのだ。
「皆無事!?」
「アニーさんっ! 来てくれたんですね!?」
仲間の一人、エミリアが半泣きの声で答えてくれた。声の先には倒れている三人の仲間も居る。だが少なくとも全員死んではいないようだった。
エミリアのすぐ傍で転がっていたハミルがこちらに顔を向け、安堵の表情を浮かべる。
「――アニーさん。よかった、間に合ったんですね」
「上の融通利かなくってね! 一人、しかも新人しか連れて来れなかったけど、これなら逃げれそうだわ。――24分隊の連中は?」
「……」
ハミルの沈黙が、この場で何が起こっていたかを十分に教えてくれていた。
無念、としか言いようのない気持ちが胸に広がり、唇を噛む。
「新、人? まさか、さっきオーガを蹴り飛ばしたのは、その――」
「え、オーガ?」
エミリアが信じられない、という
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