魔物の侵攻により、アルカトラは陥落した。
防衛に当たった教団兵だけでなく、市民、旅人、貴族階級など、全ての人々が魔物の被害に遭い、運よく逃げ出せた者も襲われた。
しかし、私たち教団の人間が想像していた最悪の光景、魔物による暴力的な支配が横行する地獄は、そこにはなかった。
あるのは、欲に塗れ、爛れた生活を送ってはいるものの、何者にも縛られない自由な環境だった。
これは後からエミリアに教えられて確信を持ったのだが、教団は兵士に対して魔物の真実を伝えていなかったという。
人の肉を食らい、殺す事を至上の愉しみとする魔物は既にこの世にはなく、人間を愛し、愛欲と情欲を求める淫らな隣人となっていたのだ。
考えてみれば当然である。
魔物を人類の敵として捉えていたにもかかわらず、実際はまるで違う存在だという事が市井に知られれば、教団の存在意義がなくなる。そうなれば今まで信仰により利益を得ていた者達は路頭に迷う。だからこそ言わなかったのだろう。
ともあれ陥落後、襲撃してきた魔物たちの協力により、彼女たちが持つ様々な技術のおかげでこの街はさらなる発展と活気に満ち、前以上に巨大な都市になろうとしていた。
そこに貧富の差はなく、以前のような緊張感も完全に消えていた。代わりに妻との交わりに夢中になってしまい、ほとんどの市民が三日に一回程度しか働かなくなってしまったが、ご愛嬌というものだろうか。
まあ、何はともあれ私も被害者の一人だ。
部下だった二人の少女に縛られた挙句、押し倒されて気を失ってしまうまで搾られた。そして、その二人を娶る事となったのだ。
それからどうしたかというと、私は二人の協力も経て、この街の守衛部隊の一員となっていた。
・・・
目の前で、頭部から一対の角を生やした、元部下の少女が安らかな笑みを浮かべて眠っている。
「……えりあす、さぁん……♪」
元々は真面目一辺倒で、あまり笑う事のなかった彼女だが、魔物となってからはよく笑うようになった。主にいやらしい笑みばかりだが。
寝返りを打ち、後ろに顔を向ける。
「たいちょー……♪」
頭部から数本の角、そして爬虫類の耳、髪と同じ色の鱗を襟首まで纏った竜の少女が、口の端から涎を垂らしながら満面の笑みを浮かべて眠っている。
こちらの少女は前から無邪気で、それ故に困らされたものだが、今ではそれがかえって愛おしく思えるようになってきていた。
「――腰が……」
三人とも生まれたままの姿で、並んで眠っていたようだ。
――昨日はまた、相当だったな……。
二人の身体に飛び散っている情事の跡と、部屋に漂う雄と雌の香りから、昨晩の激しい交わりを思い出す。代わる代わる10回、いや20回は達しただろうか。
腰を動かす度に鈍い痛みが走り、動く事すらままならない。
それでも何とかベッドから這い出て、守衛隊の制服に肩を通す。どう見ても薄く、私服にしか見えないのだが、これを支給した者曰く魔法が掛けられていて、生半可な刃では傷一つ付かないものらしい。
装備を整え、重い身体に鞭を打ちながら朝靄の残る街に出ていくのであった。
・・・
魔物によって、アルカトラはこの上ない平穏を手に入れた。
しかし、小さいながらも、位置的には重要な場所だ。何時教団が、拠点を取り戻す為に侵攻してくるかは分からない。
その時の為に守衛隊は結成されたのだが、夫さえ居ればいい魔物たちに対して呼びかけてもあまり効果はなかったようだ。現に、私の二人の妻も興味はなかったようで、所属する事を伝えた時点では存在すら知らなかったようだ。
「――ふぅ。階段を上がるのも一苦労だな」
それでも私は、この平穏を守りたかった。
知らなかったとはいえ、今まで退治してきた魔物たちへの贖罪のつもりだった。
しかし、今はその他にも別な理由がある。
「さて、今日は――」
「――異常、なさそうですよ?」
「そうか。……いや、そうじゃない。エミリア、何故お前がここに居る」
いつも私が座っている筈の場所に、家で眠っていた筈の妻、エミリアが座っていたのだ。彼女は背中の翼をせわしなくはためかせながら立ち上がり、
「一人で出かけちゃ嫌、って前にも言いましたよね?」
「随分と心地よく眠っていたんでな。起こすのも悪いと思って」
「夢より現実の方が素敵なんですから、ちゃんと口にチューして起こしてくださいよ」
「童話の眠り姫か、まったく」
そこで、ある事に気付いた。
「――シャーランは、まだ寝たままか?」
彼女と同じくベッドで眠っていた、もう一人の妻がこの場に居ない事に。
「え? ええ、そうだと思い――」
突如、エミリアの言葉を遮る轟音が下から聞こえてきた。
見れば、街中では壁を破壊し、木をなぎ倒し
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