熱い。
燃えるように熱い。
暴虐なまでに煮えたぎった熱が、私の身体を犯し続けている。
千切れた足の痛みも、潰れた肺の叫びも、もはや気にならない。それくらいに身体が燃えている。
全ての痛みが、感覚が無い。神経が燃え、脊髄が焼け付き、いずれ全ての感覚が死を遂げるだろう。
このまま私は灰になろうとしている内臓と同じ末路を遂げるのだろうか。
このまま私は、物言わぬ骸になるのだろう。
臨んだ事じゃないか、と私は私に答える。
鬼を打ち負かした。伝説の存在に一矢報いた。それも、ただの、訓練もロクにしていない人間が、だ。
悔しいだろう。人間を舐めるからそうなるんだ。私に仕返し出来なくなるから、そのまま一生悔しんでろ。
おまけに、こんな私でも、仲間を守れたのだ。
父さんの事もあって、私には誰も守れないと諦めていた。けれど、私とは正反対の性格で融通が利かない、私と同じ人を好きになった好敵手を、友達を守れたのだ。しかも結果的に仲間も守れたし、万々歳だ。
きっと、皆を泣かせてしまうけど、皆が生きていれば、それで私はもう満足だ。
――嫌。
――嫌。
――嫌。
私が居なくなる事で、きっと気まずい空気になるとは思う。
けれど、いつかそれを乗り越えられた時、今以上に部隊の皆は固い絆で結ばれる。
そうなった後私の墓前で笑い、未来に向かって行く事を教えてくれれば、それでいい。
欲を言うなら、私の友達には幸せになってもらいたいものだ。
――やだ。
――やだ。
――やだ。
どうやら脳すらまともに動かなくなったようだ。
もう助からないのだ。
思っても願っても、この身体は一ミリも動かない。目を覚ましても、身体は死んでいる。肉体はそこにあって、触れられない。
だから諦めようとした。
正確には、既に諦めていた。
――たすけて。
――たすけて。
――たすけて。
なのに、どうして子供が駄々をこねる様な、小さな泣き声が聞こえるのだろうか。
・・・
泥沼のような、重い感触と共に私は瞼を持ち上げた。
「――あ、れ」
生きている。驚く事に、その実感がある。
何処とも知れない、何一つ見えない真っ暗闇の中、私は死んでいなかった。
「何で……?」
私が浴びたものの、ドラゴンの血液の効果は、私も知っていた。本に書いてあったのだ。
こうして頭から被る事になるとは夢にも思わなかったが、書かれていた効果からして、一人の人間など容易く灰にしてしまえるような物だと思っていた。だが、どうやら違ったらしい。
ひとまず、今自分が置かれている状況を把握しなければ。そう考え、身体を動かし、
「――うひゃっ!?」
瞬間、全身に電撃が走った。
今まで感じた事の無い、意識だけが空の彼方へ飛んでいく様な、激しい衝撃だった。
「な、何、これぇ……?」
何かを成した時の達成感とも、好きな物を食べている時の満足感とも違う。 例えるとすると、興味本位で行った自慰による、性的な快楽に近いものがある。得られた快楽の大きさはそれこそ比ではないが。
「あっ、ひっ……♪」
徐々に靄掛かっていく意識の中、燃えるように熱い身体が何かを欲しがって、さらに強さを増して火照り始めた。
「――んあっ!?」
視界の中で火花が幾度も散り、暗闇の視界の中で輝きを見せる。
衝撃が身体を震わせ、それによってまた衝撃が生まれる。連鎖的に引き起こされる電撃は私から正常な思考を削ぎ取っていく。
――こ、これ、バカに、なりそっ……♪
その行動が、より一層電撃という快楽の波を強くする事を分かった上で、私は身体を縮めるように足を引いて肩を抱き、丸まった。
「あ、ふぁ、あ、――んあっ!♪」
自分の口から出ているとは思えない、思いたくない嬌声に、本来なら怖気立つ所だ。しかし、その声すらも、今の私には身体を燃やす快楽として現れる。
このままでは危険だ。そう判断した、辛うじて残っていた小さな理性が、最後の力を振り絞って言葉を紡ぐ事に成功した。
「しんっ、たい、きょうか、じゅうぶんんっ、の、いちっ!」
身体強化の倍数を、どうにか告げきった。
本来強化に用いる物を、逆に弱める。
対象は、感覚器官全部。
「――……ぅぁ」
全身の感覚が、酷く鈍くなった。
本来得ている物が遠く、小さくしか感じられなくなった。
冷たい風を感じる触覚も。
悪臭を伝える嗅覚も。
全身を襲っていた暴力的快楽も。
唐突に腕に、足に、頭に倦怠感が圧し掛かり、二日酔いもかくやという腹部の重さを得た。このまま急に動けば、まず間違いなくゲロる。
「……まあ、動くからいいか」
若干身体の火照りは残っているが、先ほどまでの、服と肌が擦れただけだったにも
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