第十二話 少年の自室にて/少年兵のターン

 子供の頃、俺は立派な騎士になるのが夢だった。
 爺さんには殆ど会った事がないが、五歳くらいになるまではずっと、大勢の部下に囲まれて、あれこれ指示を飛ばす親父の姿を見ていたからだろう。

『うしろでさくせんかんがえるより、おれはたたかいたいぞ!』

 そんな事を言って、剣を模した木の枝を振り回して、誰も居ない庭で騎士ごっこをしていた。そう、たった一人でだ。
 時折、親父かお袋を訪ねてきた客が俺の事を見て、

『筋がいいですね。君は将来素晴らしい騎士になれるでしょう!』

 思ってもいない事を言っては親父達に取り入ろうとしていた。
 当時の俺は純粋で、自分に本当に才能がある、と思い込んでしまい、ロクに訓練も積まないで訓練校に入学した。最初は同じような理由で入学した連中と肩を並べていたが、徐々にそいつらから距離を置かれるようになった。
 理由は明白。俺が有名どころの生まれだからだ。
 クラスどころか、学年、学校全体から『そういう目』で見られ、孤立していった。ついこの間まで仲間だと思っていた奴らが、俺の事を腫物のように扱い始めたのだ。
 教師共は、貴方の為、君の為に、とか頼んでもいない事を無理やり押し付けて、勝手に祭り上げようとする。だけど俺にはそれに応えられるだけの才能なんてなくて、ただの世間知らずのガキで、虐めのような個人授業にひたすら耐える事しか出来なかった。
 学校には居場所がない。街に出ても『そういう目』で見られる。家に帰っても、親父達は成績の事ばかり聞いてくる。
 もううんざりだ。誰でもいいから、俺を普通のガキにしてくれ。
 寝る前にいつも、そんな事を考えていた。

 ・・・

 真夜中に目が覚めた。いつもの重苦しい夢から無理やり俺を覚醒させたのは、ノック音。

「――誰だよ」

 何度も何度もやかましく鳴り響いてくる。火事か緊急出撃か、と思わせるくらいにしつこい。あのドアは朝の襲撃によって破壊されていたが、どうにか応急処置にまで治す事が出来たのだ。あまり手荒に扱って欲しくはない。

「……そういや、朝にもこんな感じでノックされてなかったか?」

 ノック音の感覚。鳴り響く力加減。そして、徐々に大きくなっていく音。
 堪らなく嫌な予感がした。

「待て待て待て、流石にそれは無――」
「入るわよー?」

 既視感。
 そして、飛来物。

「うおぁっ!」

 だが、それ故に被害を免れた。応急処置の努力を一秒未満で無駄にしてドアが飛んできたが、身体を捩じり、何とか回避する事が出来た。

「へっ! そう何度も喰らいやしねぇよ!」

 破壊された入口には、やはりと言うか何というか、思った通りの人物がいた。その人物、シャーランは遠慮も悪びれもせずに部屋に入り、俺の前に立った。

「おい馬鹿女! こんな真夜中に何しに、――臭っ!?」

 目の前の女性は目が据わっており、顔も赤い。加えて吐息は酒臭く、ただ事ではない雰囲気が漂っている。

「いやー、知り合いと飲んでたら遅くなっちゃったわー。タイチョーに怒られてあっちで寝にくいし、ここで寝かせて?」
「――はぁ!?」

 酔っ払いが、何やらとんでもない事を口走っていた。

「ななな何で俺の部屋なんだよ!?」
「だって他に部屋ないじゃなーい。私、床でも寝れるから心配ないよー? アンタが多感なお年頃だってのは知ってるから、今日はちゃんと服着て寝るよー」
「そういう意味で聞いてるんじゃねぇよ!」

 普段は裸で寝ていると言うのか。

 ――……いやいや、俺は何を考えてるんだよ!

 突然湧いた余計な思考を頭を振ってうち消し、

「俺の部屋で寝るのを誰が許可したってんだよ!?」
「部隊の人間の男女が一緒に寝ちゃいけない、っていう決まりはないじゃない。ハミハミとアネーがそうなんだし、問題ないでしょ?」

 昨日は隊長のトコのベッドで寝てたからねー、と言う女に、俺は戦慄した。確かに、望ましくない、褒められる事ではないというだけで、やってはいけない事ではない。

「だからって何で俺なんだよ!」
「二人の部屋には入れないし、タイチョーのトコには行きにくいし、……えーと、あの子なんて言うんだっけ。エモリカ?」
「エミリアか?」
「そうそう。何か知らないんだけど、どうもあの子に嫌われてるらしくって」

 言われて見れば今朝からエミリアの奴は調子が変だった。まあ、俺の気にする事ではないので無視してたが。

「だから、空いてるアンタの部屋に来たって訳。明日寝坊しなくて済むから助かるでしょ?」
「起こしてくれなんて頼んでねぇだろ! 余計な事するんじゃねぇ! 出て――」
「――タイチョーから聞いたんだけど、アンタ寝坊の常習犯らしいねー?」

 出て行け、と言うよりも先に、バカ女が喋る方が早かった。酔っ払った顔を面白そ
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