「――様。ご主人様」
……ん、あれ?
「もう、こんな所でお眠りになられては、風邪を引きますよ?」
フィネア……? 変だな、俺、寮で寝てたと思ってたのに。
「まだ夢見心地のようでいらっしゃいますね。――寮を出られて二人で暮らし始めて随分と経ちましたよ?」
んー? そうだっけ?
……あー、そうだったそうだった。寝ボケてたわ。
しばらく俺の実家に住んで、そんで、
「はい。結婚式も上げました」
そうそう。便宜上初夜とは言うものの、正直いつも通りだったよねぇ。
いや、いつも以上だったか。まさかベッドの上でウエディングドレス着た君を滅茶苦茶にしたし。
「ふふっ♪ 今でもあの日を思い出すと、胸が一杯になって幸せな気持ちになります」
考えてみると、あの日のなんだねー。
「ええ。魔物、少なくともキキーモラはその点に関して人間と変わりありませんから」
十月十日。今日から逆算すると、丁度結婚記念日だしね。
「これも、何かの思し召しでしょうかね。ご主人様と私が正式に結ばれた日に、――新しい命が、私の中に芽生えたのは」
どうだろうねー。とってもロマンティック食らったけどさ。
あと、もう一つ。
「そうですね。――結婚記念日は、ご主人様が初めて『ロミ・ケーキ』にいらした日、私達が出会った日ですものね。本当に、運命なのでしょうか」
俺は基本、運命(さだめ)なんて信じないけどさ。これはちょっと冗談か何かと言ってほしいね。出来過ぎだろう、と。ちょっと出てこいワイズマン。
何はともあれ、辛くない? 病院服はキツくない? ベッドの傾きはもっとユルい方がいいんじゃない? 何か食べ物要る?
「ご心配なさらずとも、魔物の身体は丈夫です。お気持ちだけ頂いておきます」
そう? そうなの? 本当に大丈夫?
「ええと、正直な事を言いますと、こうしてご主人様を前にしてベッドから動かない、という状況が物凄く落ち着かないので動く許可をいただけませんか? 魔界リンゴを剥きますから」
ゆ゛る゛ざん゛!!!
君がキキーモラで、働いてないとぬああってなるのは長い付き合いだから分かる! けど今だけはダメ!
リンゴだったら俺が剥くよ! ほぅら見て見て、リンゴの皮がスルスル脱げていくよー。おやめ下さい将軍様、あーれー! よいではないかよいではな――、ぐあぁっ!?
「ご、ご主人様!?」
あ、焦って指切った……。
「だだだ大丈夫ですか!? 今消毒を――」
なーんて、冗談だよ。この血っぽいのはリンゴの皮さ。
「なっ!? お、お戯れはやめてください! 本気で心配したんですから!」
はっはっは。メンゴメンゴ。
どう? ちょっとは落ち着いた?
「違う理由で緊張しました。全くもう……」
悪かったって。代わりに何でもいう事聞くからさ。
あ、動くのはなしね?
「――でしたら、ご主人様。お願いがあります」
んー? 何でも言ってみ?
「その、私の事を、……抱き締めて、頂けないでしょうか」
抱き締める? いっつもやってるように?
#160;お安い御用っと。
ほら。
「……」
とくん、とくん、って、フィネアの鼓動に合わせて子供のも俺の身体に伝わってくるよ。
「……ご主人様」
ん。大丈夫。
「ぇ……?」
君が不安に思ってるの、分かるよ。だって俺も超不安だし。
元々自分が自分である事にすら自信を持ててなかったんだもんね。親として在れるかとか、ちゃんと育てられるのかとか、これからどうなるのかとか、もしかしてこの子も超淫乱なんじゃないか、とか思ってるっしょ?
大丈夫。自分を信じて、なんてそんな俺自身にすら言い聞かせられない事言わない代わりにさ。
こうして抱き締めてる俺の事、信じてよ。そしたら俺も、これまでと変わらず君の事を信じるから。
「……はい。んっ――」
んむー。フィネアの唇はいつもプリプリだなぁ。舐めれば舐めるほど、しつこくない甘さが広がってくるし。
「ぷはっ。……あの、ご主人様」
うん。しよっか。
俺も、ボテ腹な君を見てて、内心ドギマギだったからさ。
「はい……♪」
恥ずかしさ二割、多幸感五割、そして情欲三割くらいの表情で服の合わせを解き、下には何も身にまとっていない白い肌が露わになる。
しゅるり、と絹擦れの音が病室に響くと同時に、鍵もかけずに初めていいのか、なんてちょっとだけ思ったけど杞憂だろうなぁ。ここ、魔物専用病棟だし。
「……っ♪」
普段はメイド服という、鉄壁の守りによって簡単には触れられないようになっている素肌が、いともたやすく露わになる。さらに、生まれた服の合間から見える大きく膨らんだ腹部が、強烈なまでに母性を感じさせる。
そして『この、魅力
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