春!
春といえば桜! ある意味俺にとって凄く身近なカラー!
春といえば新たな出会い! 俺みたいに入学式で居眠りこくなよ!? これから入社式の奴は地獄(アビス)へようこそ!
春といえば別れとか言う奴! 気持ちは分かるけどちょっと黙ってろ! 今いい空気なんだから!
春といえば!?
……眠い。
春眠暁を覚えず、っていうように春はやたら眠い。あったかくなって身体がヒャッハー状態になり、ビタミンB群のどれかが足りなくなりなんやかんや眠くなるって何処かで見た気がするけど、実際よく分からん。
本当は太古の矢を持った春の妖精さん(E:黒い甲冑)がみんなにレクイエムを歌っていて、その所為で眠くなるとかなんじゃないだろうか。矢を奪ったら凄い事になりそうだ。
何はともあれ、春の陽気に包まれた俺は人気のない公園だというにも関わらずビニールシートの上へ倒れ込むように横たわった。
「ーーはい。ごゆっくりお休みくださいませ、ご主人様♪」
さくらんぼのように甘い匂いで、低反発枕より柔らかく、ゆたんぽよりぬくもりに満ちた膝枕が、睡魔に負けた俺の頭を優しく包み込む。
このマッポーの世で最も俺が安らぐ事が出来る場所。
それがこの、恋人こと、フィネアの居る場所なのだ。
・・・・・・
桜真っ盛りだからお花見しよう、という事でご主人様と一緒に秘境の山奥まで来た私達。
シーズンとはいえ、流石に詳細地図もないような場所に人は居らず、私達は大自然の中で2人きりの穏やかな時間を過ごしていました。
腕によりを掛け、ご主人様の為に早起きをして作ったお弁当を見事な桜の花を背景に談笑しながら食べる。それはとても、言葉では言い尽くせないほどの幸せな時間でした。
大好きな人が側に居る。
愛おしくて堪らない人が、笑ってくれる。
己の全てを捧げたいと思える人が、手を取ってくれる。
女として、魔物として、キキーモラとして。これほど胸が暖かくなる事はありません。
手に入らないと決め付けていたものが、ここにはある。
欲しいと願いつつも諦めていた関係が、この方と私の中には存在する。
私の全てを受け止めてくれる方が、側で笑い掛けてくれる。
そう思うと、涙がこぼれ落ちそうになるのです。
あ。
ご主人様がうつらうつらとしています。程よく暖かく、お腹も膨れて、眠くなってしまったのでしょう。
いいんですよ、お眠りになって下さい。あなた様の寝顔を側で見られる事は、何物にも代え難い尊いものなのですから。
誘われるがままにこちらへ倒れ込むご主人様。しっかりとそのお身体を受け止め、首を傷められないように位置を調節します。
安らかな寝息。とても幸せそうな寝顔。見ているだけで、私の胸はいっぱいになっていきます。
普段からこの方で満ち満ちている私の中へ、さらに押し込むように入り込んでくる。苦しいのに、苦しくない。むしろもっといっぱいにして欲しい。そんな気持ちになる。
ふと、私の鼻を彼の匂いがくすぐりました。
意識していない時は、ただ心が安らぐその香り。けれど、一度意識してしまえば、私を引き付けてやまない中毒性の高い香り。
心臓が跳ね、視野が狭まる。このキキーモラらしからぬ、爛れた肉欲に満ちた身体が彼を欲し始めたのです。
許可もなく、それも眠っている彼を強引に襲うなど、私達にとってはあり得ません。
しかし、身に収まり切らない淫蕩の本能は悉く私のか弱い理性を蹂躙し、快楽を求めて彼の身体へと近づいて行くのです。
濃くなっていく彼の香り。体臭に混ざって鼻腔を駆け抜け脳を焼いていく、彼の『精』の匂い。
欲しい。
この匂いが。
一度その感情を抱いてしまえば、後はただの言い訳に過ぎません。
何度も何度も、穏やかな眠りの中にいらっしゃるご主人様に謝りながら、その頬に舌を這わせました。
甘いようで、少々塩気のある、どれだけ口にしても飽きぬ味。耳の後ろや鼻の側面など、時折味の濃い垢を舐め取り、口に含む。
じんわりと広がっていく、愛おしい人の味。舌に染み込み、身体を駆け抜け、心に響いていく。
起きる様子はないけれど、もし起きられたら、と思うとドキドキする。
背徳的な行為に、鼓動が高鳴っていく。股が濡れ、彼と繋がる準備が整ってしまう。
ついに私は、より強い匂いのする唇に目を付けました。
吸い付くように合わさった私とご主人様の唇。舌で軽く触れただけで閉じていた唇は開かれました。まるで私を口内へと誘っているかのような行いに対し、つい嬉しくなってしまいます。
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