今日は日曜日。小学校はお休みで、お外もいい天気。ここしばらくは雨が続いてお外で遊べなかったから、今日はうんと駆け回りたい。
「おとーさん、おかーさん、いってきまーす!」
朝ごはんとお片付けを済ませてから、ぼくは家から飛びだした。
まったく、元気があるのは良いことだけどもうちょっと落ち着いてくれないかしら。男の子はあれくらい元気な方がいいよ。そんな二人のお話しも耳に入らないくらいにぼくは夢中になって駆けていた。
行先は家の裏手から少し離れた小さなお山。道路もなければ信号機もなくて、ぼくみたいな子供が集まって秘密基地を作っているかもしれない、そんな山。
そこでぼくは誰にもないしょの秘密を見つけたのだ。
「おーい! やっほー!」
すっかり通り慣れた獣道を抜け、洞穴の前で大きな声を出す。ここは山のてっぺんではないけれど、もし起きていたら返事を返してくれるはず。
「やっほー!」
穴の中から甲高い声。どどどどと地面が揺れる音が、だんだんとぼくの方へ向かってくる。自転車や自動車がぼくめがけて走ってくるようなそんな音。だけどぼくはちっとも怖くなかった。
「おっす!」
音の主はぼくの目の前で止まると、びしっと右手をあげてあいさつをした。ぼくよりも一回り大きくて、髪の長い女の子。大きくて硬くて、そして立派な爪がきらきらと光っている手をあげたままひらひらと動かしている。
「ワームちゃん、おっす!」
ぼくは、ワームちゃんがあげた右手めがけてめいっぱいに手を伸ばした。ぱぁんと小気味いい音のするハイタッチ。にししと笑うワームちゃんに、ぼくも嬉しくなって、そして少しだけ悔しかった。
「ざーんねん、まだまだあーしのほうがおっきいなー?」
ワームちゃんは両手で軽々とぼくを抱えて視線を合わせると、ぎざぎざの歯をむき出しにして笑うのだった。
「さびしかったぞー! 元気だったか?」
「うん!」
「そっかそっかー! それじゃあ今日はたっくさんあそべるなー!」
足の代わりに生えている尻尾をぶんぶん揺らし、ごつごつした手とやわらかい体で包まれる。ちょっぴり恥ずかしいけれど、ワームちゃんなりのあいさつのようなものだと分かっているので、いつもガマンしている。
「さっ、さっそく行こーぜ! あーしのせなかから手をはなすんじゃないぞ?」
ひょいと背中に乗せられておんぶのかたち。えいえいおー、とこぶしをあげてから、ワームちゃんはぼくを乗せて山道を上へ上へと登りだした。
「きょうはどこであそぼっか?」
ぼくはワームちゃんの背中で揺られながら訊ねてみる。ワームちゃんはぼくよりおっきいはずなのに、時々すごいうっかりをすることがあるからだ。どこに行こうかあれこれ考えながら走ったおかげで、めちゃくちゃな山道を作ったことは一回や二回じゃない。
「んーっと、そーだなー……そうだ! 雨があがったから見せたいものがあるんだ!」
最後まで言い切らないうちに、ぐるりと九十度向きが変わる。勢いでふわりと浮いた体は、尻尾で優しく受け止められた。
「たしかこっちだったはず! そんな気がする!」
「だいじょうぶ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! もしまちがったらその分がんばるからへーき!」
ぼくの方を振り向いてにぃっと笑うワームちゃん。頭や角に木の枝がぶつかっているけれど、ワームちゃんは痛がるそぶりすら見せなかった。
「まえ、まえみないとあぶないよ!」
「へーきへーき、だいじょーぶだって! さ、いそぐぞー!」
ぼくが走るよりも、自転車に乗るよりもずっとずっと速く駆けていく。怖くないといったら嘘になるけれど、広い場所でかけっこやおにごっこをするのはとても楽しかったし、背中に乗って景色がすごい勢いで後ろに流れていくのは気持ちよかった。
「──むぎゅ!」
「だからまえみてっていったのに……」
「へへへ、だいじょーぶだいじょーぶ……ほらな?」
でも今みたいに、おっきな木の幹にぶつかった時に照れ笑いで誤魔化すのは直してほしいなとも思うぼくであった。
§
「ついたぞー! ここだここ!」
「わぁ……!」
ワームちゃんの背中から下りて辺りを見渡す。そこには雲一つない青空と、その下で咲き誇る色とりどりの花があった。
「すげーだろ! 雨がふったあとは花がきらきらしてるんだぞ!」
ワームちゃんの言う通り、雨に濡れた花や草が太陽の陽射しを浴びてきらきらと光輝いている。赤色や黄色、紫色に白色。ぼくはお花に詳しくないけれど、この光景は誰かに自慢したくなることはとてもよく分かった。
「ワームちゃんはこのばしょをいつみつけたの?」
「わすれた!」
あららとずっこける。いばって言うことじゃないと思う。
「けど、もしともだ
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