たくさんもぐもぐキキーモラさん

 秋も深まった今日この頃。二人きりの小さな食卓には随分と豪勢な料理が並べられていた。中央の大皿には色とりどりの天ぷらが山と盛られ、左右には煮物やらきんぴらやら揚げ出し豆腐やらが所狭しと置かれている。

「もぐもぐ……おいしいですね、だんなさま
#9825;」

 並べられた料理に笑顔で舌鼓を打つのは妻のキキーモラ。テーブルからはみ出んばかりの料理は全て彼女一人で作ったものだ。和食も作れるようになりたいです、と気合を入れた結果がこれである。

「だんなさま、これもおいしいですよ
#9825;」

 そう言って、箸で摘んださつまいもの甘露煮を俺へと近づけてくる。口を開けて迎え入れると優しい甘みが広がった。味が染み込んだ、それでいてくどさのない芋を二度三度咀嚼する。

「うん、とってもおいしいよ」
「はい、ありがとうございます
#9825;」

 目を細めて微笑んだ彼女に、お返しとばかりに摘んだ天ぷらを近づける。
 彼女は手皿で差し出されたそれに面食らったようだったが、おそるおそる目を閉じると一口で頬張った。もぐもぐと幾度か口を動かし、やがて飲み込んで表情を変える。

「だんなさま、手皿は行儀が悪いですよ?」

 口調こそ拗ねた風ではあったが、言葉とは裏腹に満更でもなさそうだった。

「ほら、こうやって……はい、あーん
#9825;」
「あーん」

 お手本を見せるように差し出された天ぷらを口で受け取り、じっくりと味わう。ふと、彼女の視線に気が付いてそちらを見やる。彼女は俺の方を見て、クスクスと唇に手を当てながら困ったように微笑んでいた。どうして笑っているのかを聞こうと開きかけた口は、

「だめですよ? お口の中に物を入れたまま喋っては」

 突き出された人差し指で封じられてしまった。子供のように扱われた気恥ずかしさとばつの悪さで、咀嚼の動きを速くする。こちらの慌てたような、むくれたような様子を見て、彼女は隠すことなく穏やかに笑った。

「っく、ぷはぁ……全く、どうして笑うんだ?」
「可愛らしかったからですよ」

 嫌味のない顔で答えられて思わず言葉を失う。可愛いだって? 

「私の作ったご飯をおいしそうに食べてくれる姿が可愛いからです」
「嬉しいとかそういうのじゃなくて?」

 彼女は、勿論嬉しいですよ、と前置きをして居住まいを直した。そして俺の顔を真正面から見据える。真剣な眼差しであったが、その奥にはどこか子供や小動物を可愛がるような色が見え隠れしていた。

「だんなさまはおいしいものを食べた時には、その、何といいますか……子供みたいな顔をされますから」
「だからって子供みたいに扱われるのは困る」
「でしたら、食事のマナーをしっかり守ってくださいね?」

 笑顔で窘められ、反論の言葉を失ってしまう。何も言い返せない俺をクスクスと笑うと、彼女は煮物へと手を付けた。口に含み転がして頬を緩ませる。その姿はまるで。

「きみだって子供みたいじゃないか」
「何かおっしゃられましたか? だんなさま
#9825;」

 いいや、と生返事をして食事に戻る。米を口に運び、汁物で口を潤す。そうして天ぷらに手を伸ばしたところで、同じように伸ばされた彼女の箸と触れ合いかける。手を止めて顔を上げると、彼女はニコニコと屈託のない笑顔で笑っていた。

「……ふふっ」

 思わずつられて笑いを返す。彼女は言葉を発さなかったが、照れ隠しからか別の料理へ手を伸ばすのだった。

「……もぐ、ごくん。だんなさま、もうすぐ煮物がなくなってしまいますよ」
「ああ、ありがとう。頂くよ」

 それからはお互いに言葉少なだった。それは決して空気が悪くなっていたからではない。むしろ穏やかな時間であった。それぞれが料理をつまみ、時には餌付けをし合い、他愛もない話をする。そんな和やかな空間が、そこにあった。

「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした
#9825;」

 山盛りの料理がなくなるまでさほど時間はかからなかった。





§





「だんなさま、食後のおやつはいかがですか?」

 食事を終えてくつろいでいると、彼女はそう声を掛けてきた。振り返ると、手にはトレイが握られている。その上には大きなお皿が一つと、カップが二つ。お皿には一口大の大きさの塊がいくつも積まれている。焦げ目の付いた黄金色のそれからは、香ばしい匂いが漂ってきた。

「今日はスイートポテトにしてみました
#9825;」
「またお芋?」
「はい
#9825;」

 実りの秋ですからまだまだたっぷりありますよ、と言いながらトレイを置く。さつまいもは嫌いではない。ましてや彼女の料理が嫌いなはずなんてない。だが、別に気にかかることがあった。

「食べ過ぎると太らない?」

 ピシ、と空気が凍り付く音がした。楽
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