大晦日。
外はすっかり暗くなっていて、時計の針は十一時を回っている。あと一時間もしないうちに今年は終わりを告げて、新たな年がやってくるのだ。一年の終わりである今日くらい、共に暮らす幼妻のバフォメットと、去り行く日々に思いを馳せて過ごしたいと願っていたのだが。
「キャハハ、リモコンとったー!」
「あーっ! せっかく今いいところだったのにー!!」
残念なことに、目の前で飛び回る幼女共にはこの風情が理解できないようである。幼女共――バフォメットの部下である魔女とファミリアだ――はテレビのリモコンをめぐって目の前でキャットファイトを繰り広げていた。テレビの画面は歌番組とバラエティ番組の間で忙しなく移り変わっていて、ハリセンを持った刑部狸が芸人らしき人間の尻に一撃を叩きこんだかと思えば、セイレーン夫婦が身を絡ませ合いながらサビのパートを歌っていた。
「うーたーばーんーぐーみー!!」
「ばーらーえーてぃー!!」
喧しい二人をどう処置するかを決めあぐねていると、
「貴っ様らぁ……人様の家でいつまでもいい加減にせぬかー!!」
どこからともなく飛んできたミカンが二人の脳天に直撃し、その動きを止めたのであった。
※
「ごめんなさい……」
「はしゃぎすぎました……」
ミカンを投擲したバフォメットは騒いでいた二人を正座させると、その前に腕を組んで仁王立ちになった。鼻息は荒く、誰が見ても明らかに怒っていると言えよう。
「貴様らは儂を舐めておるのか? のう、舐めておるのか?」
組んだ腕を解き、獣の掌で頬をぺちぺちと叩く。物騒な発言を除けば、幼女同士の戯れに見えないこともないだろう。もっとも、額に青筋を立てて八重歯を剥き出しにしている彼女からは、とても幼女とは思えない威圧感が放たれていたが。
「遊びに来てもよいとは言ったがな、家主を押しのけて不遜な振る舞いをしてもよいなどとは言ってはおらぬぞ――ましてや、上司の目の届く所でな。そこのところ分かっておるのじゃな?」
「ひゃい……」
「ずみばぜん……」
外見に年齢の差は表れていないが、やはり積み重ねた年季は違うのだろう。魔女は舌足らずな返事をして震えだし、ファミリアに至っては涙目になっている。ううむ、恐るべし年の功。
「兄様、何か余計なことを考えておらぬじゃろうな」
「……とんでもございませぬ」
鋭い眼光が飛んできて思わず畏まった口調になってしまう。幼妻の前で年齢の話題は禁句――という訳でもないが、伴侶ができるまで揶揄の対象になっていたこともあって少なからず嫌悪感はあるのだろう。
「もしや、他所様の家で戯れていたこやつらに目を奪われたのではあるまいな」
幸いこちらの思考は読まれていなかったようで、我が幼妻はそんな見当違いのことを聞いてきた。どうも彼女は年齢のことよりも、自分の兄が盗られてしまわないかの方が重要度が高いらしい。
「そんなことないぞ」
「なら証拠を見せてほしいのじゃ、兄様よ……いや、見せつけてほしいのじゃ」
どこか期待の入り混じった視線を送るバフォメットの手を引き、胸の中へと抱き寄せる。正座している二人に妖艶な流し目を送るバフォメットにゆっくりと顔を近づけて、
「……んっ
#9825;」
淡い桃色の唇を乱暴に奪った。
「……くふっ、ん、んうっ、ん……ちゅ、くちゅ……ちゅぱ……」
甘い吐息と唾液の絡み合う音がはじけて消える。唇同士が触れ合う軽い口づけでなく、口内に舌を捻じ込みかき回す乱暴なキス。肌に吹きかけられる吐息はたちまち熱を帯びたものへと変わり、互いの性器を湿らせた。
バフォメットが誘惑のために発した魔力で辺りが桃色に染まっていく。浴びた者に高揚感が与えられるそれは周囲の人物にも影響を及ぼして、正座した二人は顔をほんのり赤らめながら物足りなさそうにもじもじと股をくねらせていた。
「んじゅっ……ちゅ、じゅる……れろ……っく、ぷぁ……くふふ、見たか小娘共め。儂の兄様は貴様らなんぞの色気では満足できぬのじゃ、分かったか
#9825;」
「は、はいぃ……
#9825;」
「わかりましたぁ……
#9825;」
唾液を交換して生まれた糸が切れるのを待ってから、バフォメットは勝利の笑みを浮かべて二人を見やった。少なくとも二人にはこちらを誘惑する意図はなかったと思うのだが、余計なことは心の内にしまっておくことにする。
「兄様は儂だけの兄様なのじゃ……さ、分かったらとっとと床に就くがよいわ。自分たちの兄様に出会える夢が見られるよう、祈っておくのじゃな」
バフォメットは意地の悪い笑みを浮かべつつ、虫を追い払うようにしっしっと手を振って二人を追い払う。二人は虚ろな瞳のままふらふらと立ち上がると、宛がわれている客間へと歩を進め
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