ここはどこだろう。
知らない街並みに知らない景色。車の通らない、広い歩道ではたくさんの人が行ったり来たりしている。みんな、ぼくよりも大きい人ばかり。
「おとうさん? おかあさん?」
道の真ん中でまわりをキョロキョロしても、知ってる背中は見当たらない。ちょっと前、大きな人のかたまりに巻き込まれちゃって、つないだ手を放してしまったから。
「おとうさん……」
一人ぼっちになった寂しさで声がか細くなる。じわ、と目の奥が熱くなる。知らない町におでかけするから手を放しちゃだめよ、とおかあさんの言葉を思いだす。
けれどもう遅い。どうしよう。どうしたら。真っすぐ前を見ていられずうつむいてしまう。うるうると、目にいっぱいの涙がたまっていく。
「おかあさん……」
「誰がおかあさんだ」
突然声がして、思わず前を見上げる。そこには一人のおねえさんが立っていた。
水着みたいなお洋服の上からおっきなフードがついた上着を着て、お日様に焼かれた浅黒い肌に、きらきら金色に光る長い髪のおねえさん。首や手首につけた輪っかが揺れて、じゃらじゃら音が鳴っている。
だれだろう? ぼくに向かって声をかけてくれたおねえさんをじっと見ていると、おねえさんはしゃがんで顔を合わせてきた。
「どしたボウズ、こんなとこで一人でぼけーっとつったって」
「……いご」
「え?」
おねえさんはぽかんと口を開けて。ぼくはどうしたらいいか分からなくって。
「まいごになっちゃったの、どうしよう」
ポロポロ涙をこぼしてしまったのだった。
§
ぼくが泣き止むまで待ってから、おねえさんはぼくにあれこれ聞いてくれた。どうして一人でここに居たのか、誰と一緒に来たのか、おとうさんおかあさんと一緒に来たのなら、二人から聞いたお話を思い出せないか。
「じゃあ何だ、お前はお父さんとお母さんと旅行に来た訳だが、人混みに紛れてはぐれちゃったってことか」
「うん」
今はこうしておとうさんおかあさんを一緒に探してくれている。今度こそはぐれないように手をつなぎながら。
さっきまでは一人ぼっちで寂しかったけれど、もう大丈夫。おねえさんにぎゅっと握ってもらった手がぽかぽか温かくて、一人じゃないって伝わるから。
ぼくも二人を探すのを手伝おうとしたら、
「キョロキョロして転んだら危ないだろ? お前の話した特徴に似た人を見つけたら教えてやるからさ」
そんなことより元気を出しな、と露店で買ってくれたソフトクリームを食べるよう言われちゃった。白いクリームが盛られた山の先っぽをおそるおそるかじる。甘くておいしい。冷たいお菓子のはずなのに、心がぽかぽかしてくる。
だけど、ぼくばかり食べているのは何だか悪いような気がして。
「おねえさんもいっしょに食べる?」
「は?」
ぼくが差し出したソフトクリームにおねえさんは目をぱちくりさせる。思いもよらなかったと、驚いたような不思議そうな顔。
「それはお前の分だぞ、お前が食べちゃっていいんだからな?」
「ぼくばかり食べるのはずるい気がして」
「気持ちは嬉しいがな、子供が遠慮すんなって」
「でも……」
おねえさんは困り顔でガシガシ髪を
#25620;き始めた。どうすっかなとぼやきながら、ぼくの顔とアイスを交互に見やって、
「分かった分かった、じゃあ一口だけ貰おうかな」
仕方ないなって苦笑いしながら。
「──ほら。口の端っこ、クリームついてるぞ?」
ひょいっとぼくのほっぺに指を添えて、ついていたクリームを拭いとって。
「ほっぺにつけたままになるくらい夢中なら大丈夫そうだな? ま、食べきれなかったら言ってくれよ♪」
ぺろりと舐めとって、悪戯っぽく笑いとばしてくれた。
クリームがついてたことに気づかないなんて。
「ん〜♪ 甘くておいし
#9825; これならボウズも夢中になって、ほっぺにつけたまま気づかなくてもしかたないよなぁ
#9825;」
「う、うぅ……」
ぼくは恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてしまう。それを見かねたのか、気にすんなよ、とおねえさんに乱暴に頭を撫でられる。ぼくは自分の顔がますます赤く、熱くなっていくのを感じていた。
「おーおー、ゆでだこみたいな顔になってるぜ」
「おねえさんに撫でられたからだもん」
「へーぇ? アタシのせいなんだ?」
「おねえさんのせいだもん」
だったらしょうがないな、とおねえさんは頭を撫でるのをやめてくれた。髪がくしゃくしゃになるくらい乱暴で、撫でられると恥ずかしくなって。
なのにいざ手が離れてしまうと、ほんの少しだけ心に穴が開いたような気分になってしまう。
「さ、行くか。そろそろ交番につくからな」
そう言って差し出してくれた手を受けとると、
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