ゆきとつらら

「すみません、もう少し待っていてくださいね〜、あっちち」

――いや、そうでなくてですね。あっちちって、火を使ってるんだから気を付けてね。よそ見しないでね。

『ねえ、今なら二人っきりだし、ちょっとくらいシちゃってもじゃない?』

――何をする気なんでしょうか。あと人の家に上がり込むのはちょっととは言わないと思います。

「駄目に決まってます、自分から誘うなんて何てはしたない!」
『チッ、聞かれてたか……でも殿方ならえっちなことをしたいと思うのは当然じゃない? だったらこうして私たちの方から誘うのも素敵なことと思うのだけれど』

――あの、台所の方から地鳴りのような足音が聞こえてきたんですけど。あっ、戸が開いた。すげえ音。お願いだからゆっくり開けてね。壊さないでね。

「そういうのは他の人がいる前でする話題ではありませんっ! あなたも大和撫子なら少しは慎みを持って下さい!」

――大和撫子は湯飲みをちゃぶ台に叩きつけないと思います。お茶が半分零れたよ。

「ああっ、ごめんなさい。すぐに拭き取りますから……」
『やーね、乱暴な娘って。ほらご覧なさい、大和撫子がーとか、慎みがーとか言う娘に限ってあんな本性してたりするのよ。その点わたしは正直よ? 裏表あるくらいなら、最初からぐいぐい来る女の方が嬉しくない?』
「そんなことありませんっ。殿方を立てて、その後ろを三歩下がって付いていく。これこそが理想的な夫婦の関係ですっ!」

――いや何も分かんないですって。ちょっとタンマ。待って。

「どうしましたか?」
『なによ、そんな変な顔して』

――何で君たちは人の部屋に勝手に上がり込んでるの? 何で台所でお湯沸かしてお茶入れてんの? 何で自分の家のようにくつろいでんの? いやそもそも、何で人ん家の前で口論してたの?

「えっと、それはですね……」
『話すと長くなるわよ?』

――それでもいいですから気が済んだら帰ってください。君たちが来てから部屋の温度ががくんと下がったんだよ。お茶はぬるいどころか冷たくなってるよ……くしゅん……やっぱ手短にお願いします、寒い。

「ちょっと前に、氷柱女さんと出会ったんですよ」

――うんうん。さっき誘惑してきた人だよね。……まだ寒いな、毛布も持ってこよう。

『そうそう。ほら、この娘はゆきおんなだし、似た種族として親近感ってのがあるじゃない? だからちょ〜っと話をしてたのよね』

――人ん家で口論するまでの話ってどんなんですか。少なくともちょっとのことじゃないですよね。

「実は、私と彼女とで考えの違いがありまして……」
『ね、あんたも聞いてよ。この娘ったら考えが古いのよ?』

――古い? 大和撫子がどうとか言ってましたけど。

「そうですっ! 女性はやはり清く美しく貞淑にあるべきですっ!」

――あの、分かりましたから落ち着いて。急に身を乗り出してこないで。顔近い近い。寒い。

「家事をきちんとこなして旦那様をお迎えして、お仕事で疲れた旦那様を労わりつつ甘い時間を過ごして、休日には二人きりでお出かけして……そして求められればいつでも……きゃっ
#9825;」

――湯飲み倒れましたよ、布巾布巾。わぁ、すっかり冷水だぁ、ちべたい。

『甘いっ! 甘いわよ、そんなんじゃ殿方の心を掴めないわ!』

――あっ、氷柱女さんの方も落ち着いてください。君たちが元気になると部屋の冷気が強まる気がするんです。鼻水が止まらなくなるんです、さむい。

『ここはもうばりばりにえっちなことをするのよ! この身体を隅から隅まで堪能してもらって、私たちから離れられないようにするの! ほら、あんたも見なさい、この胸を、太ももを! 触りたいと――いいえ、触るだけでは物足りない、貪りたいと思うでしょう?』

――いや、今はそういうのいいんで。あっ、無理矢理手を取って触らせないでください。かえして、もうふ、かえしてください、おねがいだから。

「と、言う事で口論になってしまっていて……」
『騒いだことは謝るれど、私たちにとってはとても重要なことなの。そこは理解してくれると嬉しいわ』

――わかりました、わかりました……そろそろいしきとかかんかくとかがうすれてきたのでおひきとりねがえるとうれしいのですが……。

「そうはいきません」
『このままでは引き下がれないわ』

――なんでそこらへんのいきはぴったりなんですかぁ……わかりました、きくだけききますからきいたらかえってくださいよぅ……。

「貴方様はどちらの意見が正しいと思いますか!?」
『あんたはどっちの意見が合ってると思うの!?』

――えぇ……しりませんよそんなの……それはきみらのいうとのがたにあったときにきいてみればいいんじゃないですかぁ……?

「(無言の掌差し出し)」
『(無言の指
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