「ーーバカ。そんなわけ、ねえだろ」
『彼女』は、自分の身に起きた全てを話した。
「ありえねえ、よ。そんなの」
彼女は、間違いなく『アイツ』だったという事。
女になって、魔物になった事。
「いきなり、女になったり、かとおもったら、実は魔物になってたり!そんなの、ありえないだろっ!」
そんな事を、諦め混じりに。怒り混じりに。
「もう、役者になれないって諦めてたのに!もう、顔も見ないで過ごそうって決めてたのにっ!目の前にチャンスが出来たから縋って!それが嘘だってわかって!……そんなの……」
――――涙混じりに、血を滲ませながら。
だと言うのに、オレは何故何も言えないのだろう。
何も言えずに、いるのだろう。
「……それに、男同士だぞ。おかしいと思わないのかよ!あんな週刊誌のまんまで、いいのかよっ!おまえは、もうーー売れっ子なんだろ!!」
叩きつけられる、容赦のないもの。
嫌でも思い出してしまうのは、あの辛かった目線の数々。
知らず知らず、拳に力が入る。
まただ。
あの時からオレは、肝心な時に何も動けないままだ。
ほっとけないと思ったのに、彼女は放っておかれる事を望んでいて。
他人を放っておいてばかりのオレには、他の選択肢なんて思いつかなくて。
そんなものを見たくないから、ここまで来たのに……彼女の涙を、止める術を知らない。
いつだって、自分はそうだ。
演技以外の何かを、置き去りにしてきた。その結果、それ以外は何もオレの中に残らなくなった。
残そうとしている内に、何もかもが失われていく。
演技以外の、何も……
演技。
だけなら。
「『「あぁ、どうしてだ!!』」
叫んだ。
「『どうして僕は、愛する人を前にしてこんなにも無力なのだ……!!」』」
彼女の声を、遮って。
舞台の全てに響かせる程に、力を込めた台詞を。
「『あの時の僕は、そうやって打ちひしがれるだけの子供だった。だから僕は、いや――』」
驚いた彼女が、思わず顔をあげる。
彼女がようやく、オレを見た。目を、向けた。
「『――俺は。今度こそ、キミを守りたいんだ……』」
けれど、オレはそれに構わず演技を続けた。
これはきっと、足りない。
彼女はまだ、突然演技を始めたオレに驚いているだけだ。
演技だけじゃ、きっとまだキミには届かない。
だから。
「……キミが、どんな姿になっても。この気持ちに、変わりはない……!!」
オレの言葉(アドリブ)を乗せて、キミに伝える。
手をそっと、彼女に差し出して。
「オレに、キミを守らせてくれよ。嫌なんだよ……キミがいなくなる事が、何よりも嫌なんだ……」
言葉は、どんどん弱くなる。
カッコいい男を演じていた筈なのに。情けなく、みっともない、そんな懇願になる。
きっとそれは、オレの顔も一緒で。
「――キミが、必要なんだ」
それでも。
言いたい事だけは、しっかりと言えた。
どうか、お願いだ。
この手を取ってくれ。またキミと、一緒に――――!!
「……どうして?」
それは、彼女から発された言葉だった。
「どうして……『私』なの?」
か細く、無意識に漏れてしまったような声で。
今までになく、女性的な口調で。
不安そうに……手を、オレの方へ伸ばそうとして。
けれど、その手はオレの手を掴まない。
まだ、躊躇っている。きっと、それだけその質問の答えが欲しいのだ。
どうしてキミなんだ……か。
あんな顔を見せられたら、もうほっとけない。
ここに来たのは、それだけのつもりだった。
だけれども、もう今はそれだけじゃない。
キミが『キミ』だと知って。
戸惑って。嫌な事を思い出して。
それでも、離したくなくて。
キミの泣き顔を、見たくなくて。
笑って、ほしくて。
…………あぁ、そうだ。そうだよ。
最初からきっと……全部、そうだったんだよ……!!
彼女の手を、オレは半ば無理やりに掴む。
準備していたからか、その手は抵抗なくオレの思うままになった。
「なっ、なにし―――っ!?」
そして。
彼女の唇を、奪ってやった。
「んっ、んぐっ……!!」
柔らかい唇が、オレの無骨な唇と触れ合う。
彼女のぬくもりと、彼女の匂いと、目を瞑る彼女の顔。五感の全てが、彼女で満たされる。
舌を入れてやる。
「ん、んんっ……!!」
やった事なんかないから、きっとそれはたどたどしいもので。
だけれど、なんとか舌同士が彼女の口の中で触れ合って。
ぬめった感触が、舌先に広がる。
「……………っ♪♪」
すると、彼女の顔に浮かぶのは確かな喜び。
オレを受け入れる、満ち足りた表情。やった甲斐が、そこにあって。
「――――ぷはぁっ!!」
「ぁっ……♪」
そこで、オレは唇ごと舌を離した。
彼女から吐息が
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