第九話 戸惑いの訪れ


〜〜〜〜〜〜〜〜

……痛い。
痛い、いたい、いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい……!!
頭、割れそう……!!

あぁ、やっぱり……無茶しすぎだったのね、私……

宝石が変わった頃からこうなる事は予想していたし、防ごうと思えば多少強引でも手段はあったはずだ。
なんで、こんなになるまで我慢していたんだっけ……


……あぁ、そうだ。
あの人の、傍に……ずっといたいって、思ったからだ……


流れるような金髪に、情熱を込めた瞳の持ち主。彼がいたから、私は今ここに立っている。

そうだ、依頼はまだ途中なんだ……行かなきゃ……まだ平気だって、笑わなきゃ……

私を、呼んでる……ル■■ク■=リ■■の、ところに……



……あれ?それって、だれ、だっけ……?



〜〜〜〜〜〜〜〜


頭の中から駆け寄る以外の全ての選択肢が消滅して、俺は真っ直ぐに馬車を降りてエリーの体を抱き起こす。

「おいエリー!!しっかりしやがれ、エリー!!」

あらん限りの声をあげて叫んだつもりだったのに、エリーがそれに応答することは一切ない。
くっそ、どうなってやがるんだコイツ……!?何が起きたかわかんねぇが、このまま起きねぇなんて事は……!!























「………………ぐぅー……」
「って……寝てるだけかよぉぉぉぉぉぉ!!」

……なんて、焦ってたのは安らかな寝息が聞こえてくるまでの事。
壮絶な肩すかしに、天を仰いで叫ばずにはいられなかった。

「むにゃ……すぴー……」

一方のこいつは、俺の腕の中で人の気も知らずにのんきな寝顔を晒していた。だらりと手足は投げ出されていて、深い眠りについたのか表情は安堵にも似たとても穏やかなもの。魔物だから元々ガキの割には整った顔立ちをしている上、だらしなく涎を零したりもしていないから余計にそう見えるのかもしれない。それも、下手したら夜にベッドで寝ている時よりも気持ちよく寝てるんじゃないかというぐらいだ。

んだよ、余計な心配かけさせやがって……あー、真面目に心配していただけに無駄に疲れさせられた気がすんな。

「あーわりぃ、ヤエコちゃんにヒューイ。こいつ寝てるだけだったわ……」

けど、寝ているだけならばもう安心な事も確かだ。
ホッと胸をなで下ろしながら、俺は後ろで未だに心配しているであろう二人へと振り向いた。
大方、今朝はあまり寝てない事もあって疲れが溜まってたんだろう。夜は早めに寝る奴だしな、コイツ……

「…………」
「……ヤエコちゃん?」

しかし、俺がそう言ってもヤエコちゃんはなおも難しい表情のままだった。
こいつは寝てるだけだっつーのに、何が気になるってんだ……?

「あの、ちょっといっすか」
「ん、どうした?見ての通りこいつ、普通に寝ちまってるだけだから心配いらねぇぞ?」
「それなんすけど……エリーは本当に、『普通に』寝てるんすか?」
「……あ?」

言われて、エリーの姿に視線を落とす。
未だに俺の腕の中で眠っているエリーは、俺の気苦労も知らずに寝息をたてたままだ。
……あれだけ俺が騒いだにも関わらず、ぐっすりと。

「エリー……?おい、ふざけてねぇでさっさと起きやがれっての……おい、聞いてんのか!!」
「くー……すー……」

その体を揺すって強く叫んでも、なおエリーの瞳は開かない。
俺の声などまるっきり聞こえていないかのように、すやすやと寝息を立て続けている……

エリーが倒れた時に背中に走った悪寒が、俺の中で再び鎌首をもたげ初めた。
その不安の種を消し去りたくて、俺は二人にすがるように尋ねる。

「ど、どういう事だよこりゃぁ……ヤエコちゃん、なんか知ってんのか!?」
「いや、アタシも詳しくわかる訳じゃないっす。ただ……」
「そうだね、僕も多分同じ事を考えていた。まるで……その子のそれは、ワーシープの毛皮にでも包まれたかのようだなって」
「わ、ワーシープの毛皮だぁ……!?」

確かそれって、ひとたび使えばどんな人だろうと眠ってしまうという眠りの魔力を含んだ毛皮、だったか。結構値が張る代物だから俺も実物を見たことはないが、行商人の二人が言うのだから恐らくそうなのだろう。

だが、それがわかったからと言って現状について何もわからない事に変わりはない。
俺の胸から不安が消える気配も、ない。

「でも、おかしいだろ!?コイツは魔女であってワーシープじゃねぇ、なのになんだって……!!」
「だから、アタシらにもわからないって言ってるじゃないっすか。それこそ、エリーがここで起きあがって話してくれない事には何も……」
「……っ」

つい、荒げてしまった自分の声。それに対して目を伏せるヤエコちゃんの表情は、暗い。
この子もきっと、なんとかしたい気持ちは一緒なのだ。なのに、俺は感情に
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