「ポリネシアンセックスをしましょう!!」
妻が唐突にそんな事を言い出したのは、おおよそ五日前の事。
僕の妻であるメアリは、サキュバスという魔物だ。
こと性行為に関しては常に貪欲な姿勢を見せるサキュバスの例に漏れず、彼女がこんな事を言い出すのは、そう珍しいことではない。
妻との結婚から数年経ち、毎日僕の仕事が終われば即二人で肌を重ねる日々。
魔物娘の肉体が生み出す快楽はそりゃあもう僕を余すことなく愛し尽くしてくれるわけで、数年経っても飽きる気配なんて微塵もない訳だけれど……お互いがすっかり慣れてしまっていて、毎日が同じ事の繰り返しになりつつあるのも事実で。
不満という程のものでもないけれど、それでもメアリにとってはこの小さな感情は放っておけないことなのだろう。
そんな彼女が僕のために様々な提案をしてくれるのはとても嬉しいのだけれど……ただ、僕の貧弱な知識量ではその時の彼女の言っている意味がよくわからなかった。
「ぽ……ポリエチレン?それが、どうかした?」
「ポ・リ・ネ・シ・ア・ン!!そんな袋に使われそうな名前じゃないの!!ちょっとこの前本読んでたら見かけたんだけどさ、なんか愛のある二人にしかできないセックスなんだって!!」
「愛ねぇ……」
そんな言い方をされてしまえば、妻を愛するインキュバスとしては興味を抱かずにはいられない。
僕が興味を示すと、妻は嬉しそうに『ポリネシアンセックス』というものについて詳しく解説を始めた。
曰く、ポリネシアンセックスとは肉体よりも精神的な交わりを重視するセックスだそうだ。
実際に本番を行うのは、5日の内のわずか一回。
それ以外の日は全て、出来たとしても性器以外の愛撫のみを行うことで本番への期待を高めていく。
そして本番の時も最低一時間は前戯と愛撫のみにとどめ、挿入の後も最低30分は動いてはいけない。
絶頂の後も、しばらくは繋がったまま抱き合わなければならない……
妻からの説明を要約すると、大体こんな感じのようだった。
「……なるほどね。確かに、面白そうだとは思うけど……できるの?これ」
「うっ……!!」
図星を突かれたような、妻の表情。
……いや、予想通りの反応なんだけどさ。
僕と彼女の性行為の回数なんて、それこそ毎日数回のペースのものだ。
しかも、どちらかといえば彼女が上になってガンガン腰を振るパターンの方が多かったりする。
そんな彼女、精を主食とするサキュバスが、四日間も性器に触れることすら許されない……そんなことが、果たして耐えられるのだろうか。
「た……耐えてみせるもん!!たかだか四日ぐらい耐えて、気持ちいいセックスをしてやるんだから!!」
言葉だけは強気だが、震えるその声には自信がないのが丸わかりである。
それでもやると言い出す事に、僕は少し戸惑った。
確かに彼女が思いつきで行動するのは珍しいことではないが、その割に態度が頑なな気がする。
僕のそんな思いに気付いたのか、僕と目を合わせたメアリはもじもじと照れながら口を開く。
「だ、だって……愛のある二人にしか、できないセックスなのよ?まるで、これができなかったら愛がないって言ってる、みたいで……そんなの、嫌だし……」
……全く、実に可愛い事を考えてくれるじゃないか。
まんまと雑誌にのせられたような気もするけど、そんな事はどうでもいい。
「……そうだね。やってみようか、僕達の愛を証明する為にもさ」
「……うん♪」
妻をぎゅっと抱きしめると、胸の中からは素直な返事。
しばらくこの体を味わうことができなくなるのは、少しだけ残念だ。
そんな経緯で、僕と妻の『ポリネシアンセックス』はスタートした。
まぁ……一筋縄では、いかなかったんだけれどね。
@ :四日間はキス、抱擁などの軽い前戯までで我慢する
四日間というだけならば。
ポリネシアンセックスをしようと決めたその日の僕は、そんな風に軽い気持ちで考えていた。
しかし、それが元は人間である僕の甘い考えでしかなかったという事を、この四日間で嫌という程に思い知らされる事になった。
一晩セックスをしなかったというだけでも相当まいっていたのか、朝の彼女はどことなくやつれているように見えた。
この頃はまだ、キスをしてあげるだけでも満足そうにはしていたけれど。
……今度は、妻の柔らかい唇の感触を堪能したせいで、僕が必死に性欲をこらえなければならない番だった。
自分で慰めるなど、妻が許してくれるはずもなく……しばらくは、ギンギンになったものを収めないまま眠る方法を模索しなければならなさそうだった。
二日目は、一見まともそうではあった。
ムラムラとした気分を抱え余り眠れなかった僕が起きるよりも早くに起きてご飯を用意して待っていたり、仕事にでかける際に笑顔で見送ってくれた
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