第八話 旅はしなくともどのみち道連れ



〜〜〜〜〜〜〜〜〜

自分の過ちに気がついたのは、今朝の事。

この杖じゃ……足りない。

杖が魔術師に行う機能は、主に二つ。
荒れ狂う魔力を正しく扱えるようにする『制御』と、少ない魔力でも大きな魔術を出せるようにする『増幅』。
この二つは、杖の中では対極に位置している。

制御に重点を置いた杖では増幅は余り行われないし、その逆もまた然り。

この杖は、前の杖に比べて……増幅が、圧倒的に足りていない。

彼が意図したのかはわからないけれど、これは恐らく入門用に使われる類の杖だ。

貰った時、初めての贈り物に浮かれて気付かなかった自分が情けなくて、恥ずかしくて。
自分は何故、あの男といるだけで何も考えられなくなってしまうのだろう。
あと一ヶ月は、一緒にいないといけないというのに。

……試すしか、ない。

この杖の増幅力が、前の杖にどれだけ近いのかを。

それでもし、予想よりも下回っていたら……?

……考え、たくない。
大丈夫……今まで、大事になったことなんてないもの……

『あれ』がなくても、杖が変わったぐらいなら……

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広大な海が、目の前にあった。
エリーみてぇに小さなガキどころか、俺でさえも容易く飲み込んでしまいそうな海。
青く光る水面、そこに反射する朝焼けの煌めき。

ここはグランデムの隣町であるカティナトの港。
海を睨むようにして……エリーが、杖を握る。

先端に付いた赤い宝石と、棒の部分に巻かれたリボンが特徴的な杖。
それを強く握りしめて、エリーはくるりと杖ごと体を捻った。

「『ふぁいあーすとらいく』!!」

昨日マユちゃんを捕まえるのに使った、炎の名前を叫ぶ。
大きく振られた杖の先から迸るのは、杖のように紅いエリーの炎……!!

ぽんっ。

……だと思っていたら、出てきたのは酷くちっちぇえ炎だった。
手の平よりも小さく見えるそれは、ひゅるひゅると不規則な軌道を描いたかと思うと、海に届くより先に消えてしまっていた。

「あ……」
「おいおい、失敗かぁ?らしくねぇじゃねぇか」

あの魔術馬鹿とでも呼ぶべきエリーが魔術を失敗するなんぞ、たった数日の付き合いと言えどこれで初めてだ。
行く前に練習したいなんぞと言い出すから何でかと思えば……魔女っつーのは杖を変えると調子悪くなるもんなのか?

「え、えっと……うぅん、大丈夫だよ!!今度こそ……!!『ふぁいあーすとらいく』!!」

もう一度、やや焦ったような様子のエリーが海に向けて杖を振るう。
チリチリと焼け付くような熱と共に、今度こそ大きな炎の玉が海へ向かって放たれていった。

「ほらね、できたよお兄ちゃん!!」
「おぉ……調子、悪くねぇならいいんだけどよ。それにしてもそのリボン、取らなくていいのかよ?」

俺はそこで、エリーの杖、その棒の部分に巻かれたリボンを指差す。
元はと言えば、プレゼント用だからと言ってリラちゃんが巻きつけてくれたものだ。
見栄えがいいのは確かだが、ヒラヒラし過ぎても邪魔になるだけじゃねぇか……?

「うん!!お兄ちゃんが、エリーの為にくれたものだもん!!」
「……そうかい」

……まぁ、強制するような事でもねぇか。

「うっし、じゃあそろそろ行くか。気合、入れていけよ?今日の任務は……護衛任務だ」



護衛。
非力な旅人や商人達が自分の身を守る為に雇う、荒事を担当された人間の事。
金の為なら危険な依頼だろうと引き受ける冒険者には当然、この手の任務はよく舞い込んでくる。
ただし、どれだけの危険があるか正確には見積もり辛い上に、達成するには長期間かかる事が多い任務でもある。
そのために、親魔物領グランデムにある冒険者ギルドでは、大抵が二人以上の人間でないとこの依頼を引き受けられないようになっていた。

今回俺がこの任務を受けた理由は二つある。
一つは、俺は今まで誰かと任務をしようとしたことがなかったせいで、護衛任務を引き受けた事がない。
だからこそ、エリーという連れがいる今の内にやってしまいたかったということ。
そして、もう一つにして最大の理由が……こういう任務なら、四六時中エリーといたところでごく自然な展開だと言うことだ。
しかも今回の依頼はかなりの遠くの街まで進む予定なので、グランデムに帰って来る頃には監視期間の一ヶ月は過ぎていることだろう。
大方、俺に同棲を提案したブラウのおっさんは俺とエリーが甘い同居生活でもする様を面白おかしく眺めようっていう魂胆もあったのだろうが……残念だったな、そうはいくかっての。

そんなことを考え、上機嫌になっていた俺がエリーの方を見やると……エリーは、何故か俯いていた。

「……やっぱり……」
「……?エリー?」
「え?あ、う、うん!!エリー、今日は頑張っちゃうよー!!」

沈んでい
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