第六話 魔女と鼠の鬼ごっこ


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……どうしよう。
『あれ』がない事に気がついたのは、ルベルの作った朝食に舌鼓を打っている時の事だった。
そうだ、いつもサバトの自分の部屋に置いていたのをすっかり忘れていた。

使うのは、数日に一回程度でもいい。
けれど、あれがなかったら私は、いずれ……

でも……今から、サバトに帰るの?
今日からギルドに行きたいと言い出したのは、他でもない私なのに。

冒険者として、ルベルと一緒に過ごす。
そんな楽しい日々が、これから始まろうとしているというのに……?

……大、丈夫。
今まで、大事に至ったことはない。
注意していれば、無理に使う用事もない。

だから……もう少しだけ、ここに……


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「と、ゆうわけで……本日、監査官をやらせていただきます人間代表、マーチカ=エリューでーす!!マチちゃんでもチカちゃんでもマカちゃんでも、好きに呼んでね!!」

びしっ、という音が聞こえそうなぐらいに元気な敬礼のポーズで挨拶をするチカちゃん。
初めて俺に会った時と、全く変わらない挨拶だ。
純粋な人間の女の子で冒険者という珍しさに、誰にでも愛想の良い明るい性格。
それこそ、手にしている細身の剣さえなければ冒険者なのか疑わしいぐらい。
それが相まって、チカちゃんはグランデムのギルドではちょっとした人気のある子だ。

そんな子と俺が今日挑む事になったのはこのガキ、エリーの監査官。
直接手は出さずに依頼を解決するまで適度にアドバイスしつつ監視して、その経過に何か問題があったらギルドに報告する……と言えば聞こえはいいが、要するにお守りのようなものだ。
最初は驚いていたチカちゃんだが、ブラウのオッサンから説明(エリーが通り魔云々の下りはありがてぇ事に省いてもらった上で)を聞いたら快く承諾してくれた。
勿論、給料はちゃんと出るからってのもあるだろうが、それでもチカちゃんが来てくれたことはありがたい。

「エリーはエリーネラ=レンカートだよ!!よろしくね、マーチカ!!」
「おおっと私の言葉ガン無視だ!?まぁいいや、レンカートか……レンちゃんって呼んでいい?」
「うん!!全然いいよー!!」

そんな子だからか、チカちゃんはエリーとも仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
ってかどことなく調子が似てるような気がするんだよな、あの二人。
そんな風にして二人の様子を一歩引いた所から眺めていると、チカちゃんの方が俺によってくる。

「それにしてもリッ君、いつの間にあんな可愛い女の子をお嫁さんにしたの?やるねー、このこの」
「だからちっげーってーの……」

ふざけて肘をついてくるチカちゃんに対して、俺は力の抜けた返事をすることしかできなかった。
本気で言っているわけでは、ないのだろう。
とはいえこの様子じゃ、ムキになって否定したところで余計にからかわれるのが目に見えているしな……

「それに、俺はあんなガキと結婚するぐれぇならチカちゃんとデートしたいっつーの」
「もう、冗談は髪型だけにしてよリッ君。髪の毛毟るよ?」
「笑顔が怖ぇよ!?」

いつもは優しいチカちゃんであるのだが、俺がデートに誘った途端にとても冷淡な拒絶をしてくる。
うぅむ、何が悪かったんだろうか……会う度に通算十回以上はデートに誘ってるというのに。

「まぁ、それはおいといてちょっと聞きたいんだけど……あの子、何したの?」
「んあ?何って、何だよ」
「いやー、大したことじゃないんだけどさ。……私、この街で監査官付きの試験やった冒険者なんて見たことないんだよねー。それなのに、あんなちっちゃい子にわざわざ二人がかりの試験官なんて……何かあったのかなって、思ってさ」

……突かれたくないところを的確に突いてきやがった。
実はこいつ、冒険者何人も病院送りにした通り魔だったんだぜ!!
なんて馬鹿正直に言えるわけねぇしなぁ……
そんなの、どっちも嫌な思いするだけだ。
かといって黙ってる訳にもいかねぇし……よし。

「……まぁ、な。ただ、あんまり言いたかねぇ。俺があいつ拾ったきっかけでもあんだけどよ……聞いてて気分のいい話じゃねぇんだよ」

ここは言えるところまで正直に話して、詮索を止めてもらう事にした。
そのついでに、エリーが嫁なんぞではない事もさり気なくアピールだ。

「チカちゃんに、不快な思いさせたかねぇ。俺から言えるのは……こんぐらいだ」

……よし、今の台詞は我ながらかっこよく決まった。
間の取り具合も完璧、これならチカちゃんも俺の事見直してくれるんじゃねぇか……!?

「ふーん、拾ったきっかけねぇ……あ、わかった!!エリーちゃんに童貞奪われちゃったんでしょ!!」
「どうしてそうなった!?」

見直すどころか、むしろ評価が暴落の危機に瀕していた。

「うんうんわかるよー
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