犬も歩けば棒に当たる、という格言がある。
何かしら行動を起こせば、思いがけないような事に遭遇する事の例えだ。
犬だって歩けば棒に当たるのだから、僕みたいな人間にだって勿論それは起こりうる。
ただし、人間である僕が当たったのは棒なんてものではなく虎……それも、人虎と呼ばれる魔物だった。
生まれつき動物が大好きだった僕が幸運にも当たる事になった、人虎のリンさん。
発情期だった彼女に押し倒された僕は、その後彼女とまぐわう事になった挙げ句に、彼女を妻として迎える事になった。
とはいえ、現実はそれで都合良くハッピーエンドになってくれるとは限らない。
僕には家があって、家族がいる。
僕とリンさんはお互いに両想いだからいいけれど、親がそれを快く承諾してくれるかは別問題な訳で。
……最悪、家を出る事も想定はしている。
けれど僕としてはやっぱり、せっかく僕を育ててくれた親にぐらい、認められたいなぁ……と、いう思いがある訳で。
「ふふふ、ご両親にご挨拶か……腕が鳴るな」
まぁ、僕の隣にいるリンさんが微塵も不安に思っていないというのが幸いなんだろうね。
……なんか勘違いしてる気はするけど。
「えっと、リンさん?一応言っておきますけど……僕の両親は普通の人なので倒しちゃ駄目ですよ?」
「……む、何故だ?両親というのは共に研鑽し、最初の目標となるべく人ではないのか?」
「それはリンさんの家庭ぐらいのもんですよ……」
てゆうか、両親って事はお父さんも戦う人なのか。
リンさんって、実際戦うとどれだけ強いんだろう……
「ふむぅ、そうなのか……うぅむ、人間とは難しいな……」
僕の言葉に、リンさんはぶつぶつと言って何かを考えだした。
まぁ、人虎さんって普段は山に籠もってあんまり人と関わらないって言うしね……
本来だったら、僕みたいな普通の人間では、彼女とは一生縁なんて持てなかったんだろう。
……だからこそ、僕を好きになってくれた事は、本当に幸せだ。
慣れない事を必死に考えるその姿に、僕はうれしさで顔がにやけてしまっていた。
「なぁナスタ、私はどうすれば……何だ、何がおかしい?」
「いや、リンさんみたいな人の夫になれて幸せだなぁ……って」
「……突然、何を言い出す」
口では戸惑っている風に言って目を逸らしながらも、尻尾はぶるんぶるんと揺れていて。
……可愛いなぁもう。
「大丈夫ですよ、リンさんならきっとそのままで」
「む、そ、そうか……?なら、いいんだが……」
手を握ると伝わる、暖かい肉球の感触。
リンさんに言い聞かせるつもりの言葉だったけれど、僕自身も随分と楽になったような気がする。
「ここが僕の家です。僕の親はまだ帰ってきてないと思うんですけど……」
「ふむ、そうか……それでは、お邪魔するぞ」
ドアを開ける僕に続いて、リンさんは礼儀正しく挨拶をする。
大丈夫だ、どんな結末になろうともこの人と一緒ならきっと二人で……!!
「お帰りなのにゃー、ご主人!!」
二人、で……?
「……うにゃにゃ!?何なのにゃその女は……!?ご主人、どういう事だにゃこれは!?」
玄関で僕を待っていたのは、袖の短い着物を身に着けた、小柄な女の子。
リンさんのように模様のある髪とは対照的に、真っ白な短めの髪がまず目を引いた。
……だけど、それ以上に特徴的なのがその頭に生えた白い耳と、尻の辺りから突き出た二つの尻尾。
「む……私は本日よりこの男、ナスタの嫁をやらせてもらっているリンと言う。お前こそ、ナスタの一体なんなんだ?」
彼女の身体は、ついこの前まで僕が夢見てたようなもので……まさか、この子……
「みーはご主人のペット兼恋人のタマだにゃ!!なんなのにゃ、いきなり家に押し掛けてきて嫁にゃんて……!!あんたにゃんかにご主人は渡さないのにゃー!!」
「……やっぱり、タマなんだね」
やはりというかなんというか、その正体は家で飼っていた白猫のタマだったらしい。
そっか、タマ……ついに、ネコマタになってくれたんだね……
それは、いつも夢見てた事だ。
家でタマを撫でる度に彼女がネコマタになって出てくれないかなぁ、あわよくば犯してくれないかなぁとまではいつも考えていたし、恋人になってほしいなぁ、とは実際に独り言で言った事もある。
それを本当にタマが聞いていてくれた事は、確かに嬉しい。嬉しい、けど……
「なんだと!?それは聞き捨てならんぞ、この猫!!ナスタは私の嫁だ!!他の誰にも渡さない!!」
「ふかーっ!!ご主人と昔からずっと一緒にいたみーを差し置いて嫁とは図々しいのにゃこの虎ー!!こっちこそ、野生の虎なんかにご主人は渡さないのにゃー!!」
やっぱりこうなるよなぁ……
リンさんとタマは睨み合って、互いを威嚇するように虎と猫の鳴き声を喉から鳴ら
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