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……ありがとう。
たったの一言なのにその言葉は私の心の中にじわりと染みこんで、胸を暖かくしていく。
それは、冒険者なんてもうこりごりだ、とまで思っていた私の考えを、根元から吹き飛ばしてしまう程に。
ずっと、疑問だった。
歩くのは疲れるし、目的のものだって必ず手に入るとは限らない。
本に書かれているようなかっこいい事なんて、ないのが当たり前で。
それなのに、なんでルベルは冒険者という職業を続けていられるのか。
それはきっと……ありがとうという言葉が、一番間近で聞けるから。
何度でも、その言葉を聞けるというのなら。
私のおかげで、今度こそ誰かが笑顔になることができるというのなら。
これしかないって、思った。
ルベルは……喜んで、くれるかな。
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「……わかってんのか?」
冒険者になりたい。
そう言って笑った少女、エリーへと俺はなるべく声を荒げないように切り返す。
「別に、依頼人にはいつも歓迎されるわけじゃねぇ。感謝もしねぇで金だけ渡してとっととどっか行く奴だっているし、もっと早くしろだの逆ギレするやつだっている。そもそも、依頼人には最初から最後まで会わない場合だって珍しくねぇんだ。ソーラちゃんが特別優しかったってだけで……てめぇが多分想像してるようには、ならねぇ事の方が多いんだぞ?」
真実を突きつけるのは辛いが、避けては通れない道だ。
冒険者の仕事はシンプルなように見えるが、決して楽なものではないのだ。
なんせ依頼をクリアできなきゃ金なんてろくにもらえねぇんだ、安定性なんぞ皆無に等しい。
「それに、な。今日てめぇが体験したのなんぞ、初歩の初歩もいいところだ。失敗すりゃ、そのまま死んじまうような危険な依頼だってあんだぜ?」
それを死ぬような思いをしてようやく解決して帰ったところで、依頼人からはろくに感謝だってされねぇ事だって珍しくはない。
そんなのは、間違ってもこんな小さいガキに負わせるような負担じゃねぇ。
「それでも……いいんだな?」
だから俺は、エリーの目を真っ直ぐに見つめてそう尋ねる。
俺より一回りも小さなガキは、見上げる事で俺の視線を受け止めて。
「……うん!!」
目を輝かせて、そう頷き返した。
「……合格、だな」
「……え?」
つい、そんな言葉が口をついて出てきた。
別に、俺が認めてもこいつが冒険者になれる訳でもないけどよ……そんな笑顔で言われちゃ、文句のつけようがねぇっつーの。
ったく、依頼から帰ってきた時はもう二度とやるもんかって声が聞こえそうな程ぐったりしてたっつーのに……これもソーラちゃんと出会ったおかげかねぇ。
「そんなになりてぇんだったら……俺が、推薦してやるよ」
全く、応援したくなるじゃねぇかよそんなの。
「グランデムのギルドだったら、冒険者の推薦がありゃあめんどくせぇ試験なんかはパスできっからな。明日にでも冒険者として活動できんぞ」
「本当!?そんなに簡単になれるの!?」
「感謝しろよ?これでも一応俺は、ある程度はギルドからも信頼されてんだかんな」
かくいう俺は、その『めんどくせぇ試験』を突破して冒険者になった身だ。
身体動かすだけならまだしも、ある程度は座学もやんなきゃいけねぇから苦労したな……いやー、あん時はぜってー二十年の人生の中で一番勉強したな、うん。
ま、こいつならそんな試験ぐれぇは通過しそうなもんだしな。
それなら、早いに越した事はねぇ。
「うん!!じゃあエリー、明日には冒険者になれるんだね!!」
「明日確定かよ……別にいいけどよ」
生憎俺は、明日も仕事するぐれぇしか予定はねぇ訳で……別に、付き合ってやってもいいか。
「んじゃあ、明日の朝10時ぐれぇにここ集合でいいか?てめぇも早い方がいいだろ」
「え……あぁ、うん……」
俺の提案に、エリーはどことなく曖昧な返事をする。
「なんだ?問題でもあんのか?」
「あの、えっと……」
エリーにしては珍しく、歯切れが随分と悪い。
それはまるで、言いたいことが決まっているのに言葉を選んでいるような……
「お兄ちゃん……一緒に寝て、いい?」
「……はぁ!?」
夜中の住宅街のど真ん中で、俺はまたしても声を張り上げてしまった。
……いや、でもこれ仕方なくね?
「……つまりあれか、寝床がねぇから泊めて欲しいっつーわけだな」
「うん、そうなの……」
外で立ち話というのもなんなので、とりあえず俺の家で話を聞くことにした。
いくらか説明を聞いて、ようやく俺はエリーの言いたい事を理解するに至る。
なんでもこの街からエリーの普段暮らしているサバトまでは遠く、箒を使わないと帰れないような距離らしい。
だが、夜間飛行は危険だからサバトでも禁止されているんだと。
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