第四話 魔女とシチュー、根っこと触手


〜〜〜〜〜〜

……わからない。

あの人……ルベルクス=リークと出会ってから、そう思う事がとても増えた。

私がどれだけ狭い世界にいたのか、思い知らされる。
夢中になって魔術を勉強し、この世界の成り立ちについて大体覚えた頃には、全てを知り尽くしてしまった気にさえなっていたのに。

酒場の事も、山に犬が出るなんて事も、私は何もわからなかった。

でも、今になって一番わからないのは……私自身の事だ。

彼と出会ってから、自分でも訳の分からない感情を感じる事が多い。

彼が私を嫌いかもしれないと思った時、私は思わず質問してしまっていたり。
それに、彼が誠実な反応を返してくれた時、ほっとしたり。
マンドラゴラの花を見かけた時、彼に私の出来るところを見せてやりたいと思ったり。

確かに私はルベルに興味を持っていて、彼をもっと知りたいとは思っている。
でもそれは、私にとっては知識欲の一種であるはずだ。
魔術の勉強をしている時のあの気分の高揚と同じであって、そこに別の感情はない……はず、なのに。

どうして、こんな気持ちになるのだろうか。

……わからない。私には何も、わからない……

この後も、私はもっとわからない感情ばかりを感じることになるのだけれども。

〜〜〜〜〜〜



「えーっと……えいっ」
「きゃっ……」
「もうちょい、力抜いた方がいいぞ。後、刃は手前側じゃなくて奥に差し込むようにだな……」

危なげな手つきで果物包丁を根っこに差し込むエリーに、俺はアドバイスを送る。
抜かれた直後はビクビクしていたマンドラゴラだったが、事情を説明してからは快く俺達に協力をしてくれていた。
つっても今は、あいつの手つきの危なっかしさに違う意味でびびってるんだがな……

「奥?奥って……ほわっ!?」

あーあー……ナイフ持ってんのに余所見しやがるから、手前に引く勢いが余って自分の体を刺しそうになってんじゃねぇか……
……ったく、しゃーねぇな。

「おらエリー、もう一回構えてみろ」
「う、うん……っ!?」

根っこにナイフを添えたエリーの手を、自分の手でそっと掴んでやる。

「お、お兄ちゃん!?」
「ほら、最初ぐれぇ俺が一緒にやってやるよ。そっちの方が身体に染みこむだろ?」
「え、あ、そっか……うん、そうだよね……」

余程驚いたのか、説明をしてやってもエリーはやたらとあたふたとしている。
……突然握るのはまずかったか?

「よし、んじゃあナイフの刃を押し込むぞ。別に切れ口は不格好でいいから、自分さえ傷つけないようにしてだな……」
「う、うん……」

そのまま、指導しつつも一緒にナイフを根っこに通していく。
つっても、やり方さえ覚えればエリーはきちんと出来るタイプのようで、結局切り終わる頃には俺が手を動かすまでもなく勝手に動いてくれたのだが。

「……ほっ、と!!やったぁ、ちゃんと切れたよお兄ちゃん!!」
「ほー……まぁ、初めてにしちゃあ、上出来だな」

緑色をした足から離れた根っこを、エリーは得意げに見せつけてくる。
正直切れ目は不格好だから、綺麗に出来たとは言い難いもんがあるけど……ま、それを言うのも野暮だしな。依頼には問題ねぇし。

それにしても……何だか今に比べて、手を握っている間は妙にエリーが大人しくなったような気がするんだが……気のせいだったか?

「あ、あの……私は……?」
「おう。世話になったな、嬢ちゃん!!それじゃあ……」
「え……あの、私をもらってくれないんですか……?」

次の場所へ行こうとした俺に対しておずおずと控えめながらに、マンドラゴラちゃんは顔を赤らめてそんな事を言う。

あー……マンドラゴラって、普通は引っこ抜いてくれた奴とそのままくっつくこと多いからなぁ……
別に、この子は可愛くねぇって訳じゃねぇ。
ただ、見た目がエリー並に幼く見えるこの嬢ちゃんをそういう目で見られるかっつったら……なぁ……

「私のことなんて、根っこしか興味ないんですか……?」
「その表現は色々と誤解生むから止めてくんねぇ!?」

とはいえ、こんな少女が目元を潤ませているのに、放置するという訳にもいかねぇ。
参ったな……依頼内容が簡単だったから思わず来ちまったけど、アフターケアぐれぇ考えてから受けるべきだったな……

「ねぇねぇ、それならもう一回土の中に埋まってみるのはどうかな?」

どう扱うべきか困っていた所に、横からエリーが口を挟んでくる。

「で、でも……私達、一度引っこ抜かれちゃうと、もう一度土に帰った所でもう身体は成長しませんし……」
「うん、それはエリーも知ってるよ!!でもさ、マンドラゴラって頭の花の香りで男の人おびき寄せることできるんでしょ?それ使って、もう一度男の人をおびき寄せてみたらどうかな?」
「あ、あぁ……その手が、あり
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