提灯お化けちゃんの間違った産み出し方

東洋の国ジパング。
その国は、古くから妖怪と共存していることで有名な国であり、幼い子供でさえ知るほどにその存在は広く知れ渡っている。
妖怪の種類は多岐に渡っているが、どういう訳かその姿は皆絶世の美女といって差し支えがないものばかりである。しかも、妖怪達はただ美しいというだけではなく、一度男を決めるとその者から離れようともしない一途な面も併せ持っている。
男たるもの、女から想われたいと願うのは至極当然のことであり、その為、人外の者であるにも関わらず、このジパングという国では彼女達と番いになろうと思う男性は後を絶たないのが現状であった。

そんな奇妙な情勢の国のある街の中で、男が二人真夜中の道を歩いていた。
魔術の技術の進歩した西の大陸とは違い、その道には夜を彩る街灯などがあるわけではないのだが、それでも二人の歩みは限りなく真っ直ぐに進んでいる。
それもそのはず、彼等のうちの片方、定良(さだよし)という男はその手に朱く輝く提灯をぶら下げていたのだから。

「いやーわりぃねぇ、送ってもらっちゃってさ!!」
「気にするな。これぐらい、どうってことないさ」

白い紙の上に紫色の花の模様をあしらった提灯が煌々とした光を放ち続けるおかげで、彼等の周りだけは明るさを失うことはない。
互いに同じ染物屋で働いている二人だが、流石に毎日この時間まで勤めているわけではない。
本来ならば二人の今日の分の仕事自体は既に終わっていたのだが、定良は真面目なことに常として職場に遅くまで残って明日の為の作業などを率先して引き受けているのだ。
それを、偶には手伝ってやるのもいいだろう、と言い出した男が一人いたのだが、彼にとってその発言は完全にその場での思いつきであり、夜が更けるまで続けるのを想定していなかった為に明かりの類を持ってきてはいなかった。
それを見かねた定良が、送ってやろう、と言い出した為に、定良の家は彼とは全くの逆方向であるにも関わらず、定良は彼の家までついていっているのだ。
冒頭の会話は、そのような経緯からしてなされたのである。

「それにしても定良、その提灯、本当に綺麗な形してるよな……おめぇ、それ本当に数年前から使っているのか?」
「あぁ。これでも、手入れは毎日欠かさず行っているからね。僕にとっては自慢の一品だ」
「かー!!そんな大事に扱われてるなんて、その提灯の方も幸せだねぇ!!そいつ、その内『提灯おばけ』になっちまうんじゃねーの?」
「提灯……お化け?なんだ、それは?」

きょとんとした表情の定良が尋ねると、今度は尋ねられた男の方が目を丸くした。

「おいおい、このジパングに住んでいて提灯お化けも知らないってのかぁ!?付喪神だよ、付喪神。大事にした物には神様が宿るって話なんだが……それが提灯だった場合、どうも妖怪になっちまうらしい。で、このジパングにぎょうさんいる妖怪の例に漏れず、そいつはもれなく別嬪さんなんだとさ」
「なるほど……物が妖怪に、ね」
「なんだぁ?せっかく独身のおめぇさんがいい嫁さんを捕まえる機会だってーのに、興味なさそうな顔だねぇ……そんなに興味ないってんなら、ちょっとその提灯貸してくれ!!」

そう言うと同時に男は提灯へと向かって手を伸ばすが、定良がそれとほぼ反射的に両手を持ち上げた為にその行動は空振りに終わった。

「駄目だ。お前にこれを貸したら、僕はどうやって我が家に帰ったらいいんだ」
「そこはこう、手を当てて壁伝いに歩いてだな……あーわりぃわりぃ、冗談だって!!」

眉間にしわを寄せた定良に、男は慌てて謝罪の言葉を伝えた。

「全く……軽口は程々にしておけ。ほら、お前の家はあそこだろう」

とりとめのない会話を交わしながら歩いている内に、もうそんなところまで辿り着いていたらしい。
定良が指差す先にある家は、間違いなくもう片方の男のものだった。

「おぉ、肝に命じておくよ。そんじゃ、また明日な」

あまり反省の見られない態度でそう言い残して、男は振り向きもせずに歩いていく。

その背中を、定良がじっと見続けていることなど露知らず。
そして、男が完全に家の中へと入っていった時であった。

「ふぅ……ようやく行ったか……」

心の底に溜まっていたものを吐き出すかのようにして、定良は大きな溜息を吐いた。

「全く……普段はあっさり帰れるというのに……あの男のせいで無駄に時間を浪費してしまったではないか……」

顔の端を歪めながらぶつぶつと文句を呟く定良の姿は、先程までの穏和な態度が何かの冗談であったかのようだった。
定良は一通りの文句を呟き終えると、その視線を下へと移す。
そして、その顔に満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに言った。

「けど……これでようやく二人っきりになれたな、千代(ちよ)」

言うまでもないことだが、こんな夜
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33