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その姿を見つけたのは、読むまでもなく書かれた内容を丸暗記した本を、三度目に読み返した時だった。
目を引いたのは、風に吹かれる長い金髪。
私の髪も金色ではあるけれど、少し赤みがかかった私に比べると薄く落ち着いた色をしていて、その時は綺麗だと思ったものだ。
それから顔を見て男だとわかって、少し驚いたぐらい。
けれど、その人が腰に提げている『それ』を見た瞬間に、すぐに緊張が全身に走る。
……剣。
親魔物領の街に挟まれたこの山道でそんなものを持って歩いているのは、冒険者だけ。
だから……あの人は、こらしめなきゃいけない人なんだ。
とても小さな私の身長を遙かに越す高さの所にある枝の上から、意を決して私は飛び降りた。
魔術を発動して衝撃を和らげて、音もなく着地する。
まず、この人が本当に冒険者かどうか確認しなければいけない。
もしそうなら――とは言っても経験上、十中八九そうなのだろうけれど――あの場所にこの人を誘い込んで……それから、懲らしめる。
心は、痛むけど……そういうタイプには見えないあの人だって、本当は悪い人なんだ。
放っておけば、また……
「……っ」
駄目……躊躇していると、よくないことばかり考えてしまう。
話しかけるのよ、私。
いつも通り……そうよ、これはまた同じことを繰り返すだけなんだから……
……その考えが大きく間違っていたことに、後に私は気付かされることになる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そこは、山の木々をくり抜いたかのように存在している平原。
頬を撫でる風は穏やかで、日差しも心地よく降り注ぐ。
ここで休めたら、きっと気分がいいのだろう、そう思わせる場所だった。
……壁のような形をした結界で周囲全てを覆われ、杖を向けられるような、そんなふざけた状況でさえなければ。
「『遊ぼう』だぁ?ふざけんなよクソガキ!!人に炎の玉ぶっ飛ばしといて何言ってやがる!!」
「そんなの、お兄ちゃんには言われたくない!!お兄ちゃんだって……“冒険者”なんでしょ!!」
「……ッ!!のぁっ!?」
全身を赤い服に包んだガキ、エリーが構えた杖を振るうと同時に、俺を目がけて放たれる炎の玉。
俺の身長を軽く越す大きさのそれは、俺が避けると地面にぶつかり、そこに派手に焦げ痕を残して消える。
冗談じゃねぇ!!こんなもんぶつけられるぐれぇ誰かに恨まれるようなことなんぞ、これまでやった覚えねぇぞ!!
「言ってる意味がわかんねぇんだよクソガキ!!冒険者だから!?それがなんだっつーんだよ!!」
「それもわからないなんて……!!」
何故か俺の言葉は怒りに触れたらしく、ガキはより険しい表情をして俺に杖を突きつける。
なんだ……!?
こいつ、ガキの癖に何でこんな顔をして睨んできやがる……!?
「もういいよ!!お兄ちゃんの言い訳なんか、聞かないもん!!」
話は終わりとばかりに杖は再び振られ、赤く輝いた髑髏の先端から炎が迸り俺へと襲いかかる。
くそっ……!!何でこんな事になってんのかわかんねぇけど、今はこの状況をどうにかするしか……!!
跳ねてかわしつつ、俺は走り出す。
魔術を使えようが所詮は小さな子供、体力で俺に敵うわけがねぇ!!
5メートル程度の距離、向かってくる炎を避けつつ一気に詰めて、杖を振るうばかりに気を取られて隙だらけのガキへと手を伸ばす。
狙うは……大事そうに抱えている杖!!
魔術は詳しくねぇけど、これさえ奪えばもう無茶はできねぇだろ……!!
―――ヒュン!!
……風の鳴る音が聞こえて、伸ばした俺の手が虚しく空を切る。
遠くに、綺麗に着地するエリーの姿が見えた。
「っ……!?っとぉ!!」
よろけそうになる身体を、すんでの所で足を前に突き出して支える。
い、今のは……!?
自分で見たものが、一瞬信じられなかった。
後ろに向けて軽い動作で地を蹴った小柄な少女が、人間には到底不可能な跳躍力で後ろにジャンプするなんて、ふざけた光景が。
あれも魔術か……!?くそっ、道理でやたらフィールドが広いと思ったら、このためか!!
驚く暇も与えずに、エリーの炎は容赦なく俺を目指して何発も放たれる。
ただでさえ魔術で飛べる奴なのにこれじゃあ、近づくのは無理か……だったら……!!
走るのは諦めて、迫り来る炎をじっと待つ。
……右、左、それから、右!!
小ぶりな動きで軽く跳んで、炎の玉を回避してゆく。炎自体は何も考えずに一直線に放たれるだけだから、見切ってしまえば避けるのは容易かった。
そして、魔術を無限に放出など、いくら魔物でも出来る奴なんぞいる訳がない。
つーことは……!!
「……うおらぁっ!!」
炎の雨が止み、次の攻撃を放つその直前に、俺は腰に吊した
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