〜数日前〜
ドアノブを見つめる俺の胸の鼓動が、さっきからやたらと落ち着かない。
深呼吸をしてみても、大した変化はなかったがまぁ、それは無理もないことなんだろうな。
この中にいるのは、俺が全く会ったことのない人なんだから。
別に俺は人見知りではないが、礼儀を欠いた態度を取らないか多少緊張してしまうのは仕方がないと思う。
けれど、きちんと用事がある以上、いつまでもここで立ち止まっている訳にもいかないのだ。
この後の手順をしっかりと頭の中で確認する。
まずは、第一印象が肝心だ。ちゃんと気合いを込めた挨拶をして……自分が何をしたいか伝えるのも重要だよな。それからは相手の反応を窺いつつ、最善のコメントを……多少ぶっつけ本番になっちまうのは仕方ない。うん、これなら問題ねぇな。
うし……いくか!!
腹を決めてもう一度深呼吸をすると、俺はドアと正面から向き合い、
「うらぁ!!」
思いっきりそのドアを蹴破り、部屋の中へと跳び込んだ。
木造の簡易なボロ小屋の一室、そこでくつろいでいた大柄な男は、相当に驚いた表情で俺の方を見る。
「てめぇがここの盗賊団の親玉だな!!直接的な恨みはねぇが、てめぇの悪行はここまでだ!!」
「な……何だお前は!!どこから入ってきた!?」
剣を突きつけてやると、リーダー格の男は俺に叫び声を上げる。
ったく、何で盗賊ってのはどいつもこいつもテンプレじみた台詞しか吐けねぇんだよ。
お前らはそうでもねぇんだろうが、聞いてるこっちは飽き飽きして来るっての。
「あぁ?んなもん、正面突破に決まってんだろうが。つーか、てめぇんとこのアジト狭すぎてそれ以外できねぇし。全くよぉ、少しは他に潜入できる経路作るぐらいのサービスしろっつーの」
「なっ、て、てめぇ、それ以上近づくんじゃねぇ!!」
剣を持ちながらゆっくりと歩いてくる俺を見て、流石に危機感を覚えたらしい。
とはいえ、ドアを蹴破った瞬間に構えられなかった時点で、実力なんぞたかが知れてるんだろうが。
「おら、さっさと来いよ三流の盗賊さんよぉ。冒険者、ルベルクス=リークがてめぇの相手してやらぁ!!」
ま、そんなわけで……今日もサクッとお仕事終わらせますかぁ!!
「ほらよ、こんなもんでいいか?」
港町カティナト、冒険者ギルド。
盗賊制圧の任務を無事に完了し、片道三時間の道を歩いて街に戻ってきた俺は、そのカウンターで必要事項を埋めた書類を受付嬢へと突きつけた。
受付嬢である女(種族:人間)、通称マスターと呼ばれているそいつは、その書類を受け取りもせずに一度だけ、視線を紙の上から下へと向ける。
「はい、オッケー。そんじゃ、盗賊団の討伐任務終了ね。お疲れ様」
それだけで確認作業は終わらせてしまったらしく、簡潔な労いの言葉を俺にかける。
……受け取りもしねぇとか、どんだけめんどくさがりなんだ、この女。
そのくせ、こいつは仕事を完璧にこなしやがるから質が悪い。
「おう。んで、報酬金は?」
「待ってて……ほら、こいつよ」
マスターの持ってきた小さな皮袋が、カウンターの上に置かれる。
見ただけでずっしりと入っているその中身を想像するだけで、達成感でにやけてしまいそうだ。
「しっかしあんたも毎度毎度大変よねぇ、盗賊団潰してへっとへとなのにこっから更に一時間も歩かなきゃ我が家に帰れないんだから」
「もうとっくに慣れたっつーの。逆に言やぁ、たかだか一時間歩いただけでベッドにダイブだぜ?これ以上望むもんなんぞねーよ」
俺が住んでいるのはこの街ではなく、ここを出てから西に一時間ほど歩いたグランデムという街だ。
それだけ聞くと、何故併合しないのかが不思議なぐらいグランデムとカティナトの街は近い距離に思えるのだが、そうならないのにはちゃんと理由がある。
その二つの街の間には、高い山がそびえ立っているのだ。
だから、一時間という時間もあくまで山道を最短で歩いた場合の時間である。
ただ、併合はしていなくともカティナトは距離の近い隣町、更にはあらゆる流通の中心となりえる港町なので、自然とグランデムの住人はお世話になることが多いのだ。
俺もその例に漏れず、今日もわざわざ仕事の依頼を探してカティナトまでやってきたわけで。
「つーか、あんたは自分の酒を飲ませたいだけだろーが。その手にのってたまるか」
「いいじゃない。日頃頑張ってるあんたに、せめて真心を込めて一杯振る舞いたいのよ」
「その真心ってやつ、どうせ金払わねぇともらえねぇんだろうがよ」
「…………ちぇー」
やっぱり、それが狙いかこいつ……
マスター、という呼び名は、こいつが自らの手でギルドの受付嬢をこなしつつ酒場のバーテンダーとしての仕事も同時に行っていることに由来する。
この街のように、冒険者ギル
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