「俺は……お前の事が好きだ。だから、その……お、俺の恋人になってくれ!!」
何かを決意していた健人は、私に向かってそう言ってくれた。
その顔は真っ赤で、それを見ていると思わずクスリ、としてしまう。
大人の男女が同じ家に住んでいたにも関わらず、私達の間では今まで何も起こらなかった。
それは、一重にこの男が趣味に生きるようなやつだったからだろう。
いつも仕事で各地を飛び回っていて、家のことなんかは寝床ぐらいにしか考えてなくて。
その癖、家だといつもだらしないこの男の世話をするのが楽しくなったのは、いつからだったっけ。
仕事に行く前に残してくれるありがとうって書き置きを見る度に、私の胸が熱くなるようになったのはいつだっけ……
なんで気づかないのかなぁ、この鈍感男は。
「うん、いいよ。私も、健人の事が好きだったから」
だけど、そんな関係ももう終わりなんだ。ただのルームメイトから、私達は恋人になる。
よほど予想外だったのか、私の返事を聞いた健人は驚いて目を見開いた。
「ほ…ホントか、それ!?な、なんで……!?」
「もう……健人、鈍すぎ。一緒に住みたいって言い出したのは私なんだよ?その時点で気づいてよね」
「そ、そっか……そう、だよな……」
呆れ半分に私が言うと、健人は顔を更に真っ赤にしてうつむいた。
「は、はは……よかったぁ……断られたら、どうしようかって……」
ふふ……こんな姿見てると、なんでもできる優等生って言うのが嘘みたい。
涙を堪えている健人にそっと近寄って、そっと私の唇を彼のものに重ねる。
「断らないよ。ずっと、この日を待ってたんだから……だから、ね?私を、好きにしていいんだよ……?」
唇を離してそう言うと、健人は爽やかに笑った。
「あぁ。わかったよ……光」
そして、私は健人の胸の中に抱きしめられて……
私は…
わたし、は…
わたし?俺は、私じゃなくて……俺、は…………
「……はっ!?はぁ、はぁ……」
寝覚めは、なぜだか息苦しかった。
まるで何かにまとわりつかれているかのように体が重く、心なしか熱まであるようだ。
そのせいか、自分が居るのは見慣れた自分の部屋だというのに、全く知らない他人の部屋ではないのかと錯覚さえしてしまう。
そう、だ……昨日は、妙な女に手玉に取られて……それで……
「……だーっ!!くそっ!!」
まさか俺が、あんな女に逆レイプまがいのことをされるなんてよ……!!
昨日の事を思い出すだけで悔しさが込み上げてきて、頭を掻きむしる。
そして、その感触に違和感があった。
……?俺の髪、こんなに触り心地良かったか……?
それに、長さもおかしい。長い髪にするのは嫌いだったから、肩まで届く長さになっているわけが……
「何だ、これ……っ!?」
思わず自分の喉から出た声に、愕然とする。
自分の喉を振るわせて出たのは、俺の声よりもオクターブが高い、女のような声だった。
一度気づいてしまうと、腕がやたら綺麗になっている事もわかってしまう。
ど、どういうことだ……!?これじゃあまるで、俺が女にでもなったみたいじゃ……!?
「ば、馬鹿馬鹿しい!!」
きっと、体調が悪いから少し変な風に見えたり、聞こえたりするだけだ!!
それなら、自分の顔見りゃいくらなんでも何も変わってないことぐらいわかるだろ……!!
少しふらつく頭を抑えて立ち上がり、部屋に置いてある全身を映せる鏡の前へと向かう。
得体の知れない不安はあったが、それが全て解消されることを俺は全く疑いもしなかった。
しかし、俺の姿を映した筈の鏡に、俺の姿は映らなかった。
「は……?」
代わりに立っていたのは、昨日の女に負けず劣らずの美女。
肩まで伸びた明るい茶髪に、男物のシャツの下で透けて微かに存在を主張している胸。
どこか凛々しく、けれど女性らしくもある引き締まった顔立ち。
そして何より、その女が身につけているのは、少しぶかぶかな男物のTシャツとトランクスだけという、何ともシュールな格好だった。
鏡に映る女の顔は驚愕と混乱で彩られている。それが俺の表情だというのは、最早間違いなかった。
そこでガクン、と膝をつく。
現実を受け入れられなかったショックもあるが、それ以上に体に力が入らなかった。
「はぁ……はぁっ……」
体が、熱い……
どこか熱っぽかったのは気のせいではなかったらしい。
息苦しくて、呼吸をする度に熱が上がっていくみたいだった。
胸を手で押さえるとそこに柔らかさを感じたが、それさえ気にするだけの余裕が無い。
よく、わかんねーけど……一旦寝た方がいい、か……
こんな体調では職場に電話をかけるのもままならないだろうし、それなら落ち着いてから連絡を取ればいい。
この時の俺は、職場の人間
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