鍛冶屋とは、現魔王の影響で魔物が人に与える被害の少なくなったこの時代においても、未だに必要とされるものだ。
武器は魔王軍と戦争を繰り広げている教会の人間は勿論のこと、盗賊などから身を守る為にほしがる人間もいる。ダンジョンを冒険する勇者にだって必要だ。
鍛冶屋とは、そんな人間にとってはなくてはならない場所なのだ。
さて、ここに一つの鍛冶屋がある。『LILAC』という、商売の活発なこの街、グランデムの特に賑やかな中央通りから少し外れた通りにあるこの鍛冶屋は、決して経営が順調とは言えないながらに今日もいつも通りに店を開いて商売をしている。
そんな鍛冶屋に、近づく人影があった。年は大体20代前後で、まだあどけなさの残る顔立ち。肩まで届く少し長い青の髪は梳いていないのか少々ぼさついていて、青年があまり人の目を気にしていない様子がうかがえた。
その青年____ニシカにとって、この場所を選んだのは特に深い理由があった訳ではない。ただ、あまり有名ではない店で、なおかつ賑やかな通りから外れた場所にあったので選んだだけだ。長い間外にいるのも嫌だし、とっとと依頼を終わらせて帰ろう。そんなことをぼんやりと考えながらニシカは店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ!鍛冶屋LILACへようこそ!」
店に入ると同時に、店員らしい青年に挨拶された。ジパングのものだろうか、袖は短い筒袖で丈が腰までありながらも前を止めない羽織もののような青い上着の下に白地のシャツ、薄いズボンに頭には細長い布を巻いているという、変わった服装をしていた。
「うちの店を利用するのは初めてですかね?ならばどうぞ並んでいるこの武器を一つ手にとっておくんなせい!うちの武器はどれも一級品ですぜ!」
青年は見た目だけではなくしゃべり方まで独特なもので、ニシカはつい面食らってしまう。
「いえ、僕は今日武器を買いに来たのでは…」
「ああすいやせん、自己紹介が遅れちまった!あっしはここ、LILACで働いてるキリュウって者です。どうぞよしなに」
「あ、あの」
「こちらの包丁などどうでしょうかね?旦那、見たところ戦場に行くような人ではないようだ。ならやっぱりこういうの目当てなんじゃないですかい?」
「ですから僕は」
「しかしあんたも運がいい。この包丁、つい三日ほど前にできたばっかの出来たてホヤホヤですぜ。今なら安くしますし、どうですかい?」
「あの、違うんです…」
キリュウと名乗る青年は、早口でまくし立ててきてニシカの話をちっとも聞いてくれなかった。ニシカはこういう押しには弱いタイプなので、すっかり困り果ててしまう。
「うーんこいつはあなたの好みとは違いますかね?だったら」
「…キリュウ、うるさい」
そんな時、凜とした声が響いた。キリュウはその声に素早く反応し、声の方向へ頭を下げる。
「す、すいやせん師匠!つい、調子に乗っちまいやした!」
「お客さん、困ってる。それぐらい、気づいて」
ニシカが声の聞こえてくる方を見ると、それはどうやら店のカウンターの奥にある部屋からのようだった。声の主はこちらへやってきて、姿を現す。
その姿は、紫色の短髪に青の肌。頭から生えた角と、顔の半分ほどの大きさをした琥珀色の単眼。
「さ、サイクロプス…!?」
それは、サイクロプスと呼ばれる魔物であった。
この街、グランデムは親魔物派であるため、魔物がいること自体はそこまで珍しいことではない。しかし、サイクロプスと言えば山奥にひっそりと生活することで有名な魔物だ。街に暮らして、しかも鍛冶屋で働いているという話は聞いたことがなかった。
「いらっしゃいませ」
彼女の凜とした声と丁寧な礼で、ニシカは自分がここにきた理由を思い出す。
「す、すいません。今日は修理を依頼しにきました」
サイクロプスの少女はキリュウの方を見て、呆れた顔をする。キリュウは申し訳なさそうにうつむいて目をそらしていた。
「これなんですけど…先日に壊してしまいまして」
そう言って、ニシカは右手に持っていた果物ナイフを差し出す。鞘から取り出すと、そのナイフは刃の部分が途中からぽっきりと折れてしまっていた。先端の方も若干欠けているようだ。それをサイクロプスの少女は手に取って、観察を始めた。それに大した時間はかからず、ニシカの方へとすぐに向き直る。
「これなら、三日ぐらいで直る。その時に、取りに来て」
「ああ、はい。三日後にですね、わかりました。料金は受け取る時で構いませんか?」
「大丈夫」
「よろしくお願いします。では、僕はこれで」
「ありがとうございました」
サイクロプスの少女は必要最低限のことだけを言うので、手早く用件が片付いてしまった。さすが、無口で知られるサイクロプスだ。ニシカは用件を済ますと、ぺこりと一礼して足早
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